つたないことば
pastwill


2003年04月01日(火)  Wonderful Nights

願う事は悪い事じゃないってばよ。







Wonderful Nights







「サスケ起きろよ!!いつまで寝てるんだってばよ!!」

任務も無い休日。
珍しく朝寝坊したサスケを起こしたのは耳を劈くようなナルトの大声だった。

何時の間にか日課になったナルトの訪問。
それはどちらかが言い出した訳でも無く、自然に始まった事だ。

ナルトはどうだか知らないが、サスケにとっては今や欠かす事の出来
ない大切な日課となっている。

「なんだよ・・・。いつもより来る時間早いだろうが」
そんな心内を知られたくないから、サスケはわざと渋々身体を起した。
しかしナルトの姿より先に目に飛び込んで来たのは、1メートル
くらいの長さの笹だった。
「今日は七夕だってばよ♪」

(――ああ、そういえば)

すっかり忘れていた。

尤もここ数年気に掛けた事もなかったけど。


織姫と彦星が年に一度会う日。
笹に短冊下げて願い事する日。


それ以外何の感想も無い。





「よいしょっと・・・ってサスケも手伝えってばよ!」

テキパキと笹に飾り付けをするナルトとは裏腹に、サスケは縁側に
気だるそうに座っている。
「興味ねえ」
そっけなく言って手元に置いてあった団扇で扇ぐ。

暑い。
もう陽が高いからよけいだ。
この調子だと今夜は天の川もよく見えるだろう。

「ホラ!お前の」
いきなり突き出された水色の短冊。
「何だよこれ」
「お前も願い事書けってばよ」
トクベツに一緒に飾ってやるからさ、とナルトは得意げに言う。
「ねぇよ願い事なんて」


願うとか、そんな当てにならない事に期待したってしょうがない。
願うだけ無駄なんだ。
願う前に――

自分で叶えれば、いい。


「・・・とにかくッ、お前も何か書いとけ!その間に昼飯作ってきて
やっからよ」
ナルトは押し黙ってしまったサスケの横から縁側に上がり、気まず
そうに台所へ行く。

勝手知ったる他人の家。
ナルトはすっかりサスケの家の中の構造を覚えていた。

冷蔵庫の中身を見ながら考える。

(オレってば、なんか悪ィコト言ったっけ?)

考えても心当たりなんてあるはずもなく。

ただサスケの暗い横顔だけが気になった。


昼食後。
サスケの側に放り出されていた短冊には何も書いてなかった。





ゆっくりと夜が近づいてくる。
夏は日の入りが遅い。

すっかり日が落ちた頃、星見ようってばよ!とナルトはサスケを縁側に
引っ張り出した。

思った通りに夜空は晴れ渡り、暗闇に星の川が浮かび上がっていた。

「おーよく見えるってばよ!どれが織姫と彦星かなあ?」

キョロキョロとしているナルトを見て溜息をつく。

「あれが織姫でそっちが彦星だ。そんな事もわかんねえのかよドベ」
サスケは天の川の挟んで一際輝いている二つの星を指さした。
うるせーっ!ドベって言うなってばよ!と殴りかかるナルトをヒョイと
かわして再び縁側に腰を下ろす。

ナルトは更に食って掛かろうとしたが、そこで動きが止まった。

「そういやオマエ、短冊に願い事書いた?」

言われてサスケは僅かにばつ悪そうに短冊を見せた。

やっぱり短冊には何も書いてなかった。

「なんだよ〜、一つくらいあるじゃん」
ナルトは残念そうに言う。そんなナルトを見てサスケは少しだけ胸が
痛んだ。
「しょうがねえだろ、ないんだから」
「え〜」
情けない声を出して考え込んでしまった。
やがてナルトは満天の笑みを浮かべて、白紙の短冊を突き出した。

「じゃあオマエの代わりにオレが願い事書いてやるってばよ!!」
そして意気揚々とペンを動かした。
「お前・・・それじゃあ俺じゃなくてお前の願い事だろうが」
「平気平気!多分お前もそう思ってるから!」
自信満々に答えるナルト。

(何て書くつもりなんだ、コイツ)

まさか俺の復讐の事?うちは一族復興の事か?

(・・・そんな訳ないか)

コイツに限ってそれは有り得ないと思う。

「出来たってばよ!!」

水色の短冊に目をやると、下手な字でこう書かれていた。


『ずっと皆と一緒にいられますように』


と。


「・・・・・・・・・・。皆?」
何の事だかさっぱり解らない。
ナルトは笹に短冊をくくりつけながら答える。
「皆って言うのはカカシ先生とかイルカ先生とかサクラちゃんとか、
ん〜〜、とにかく皆!ずっと一緒にいたいってばよ」

それってやっぱり。

「お前の願い事じゃねえか」
「サスケはそう思わないのかよ?」
「別に・・・」

叶うはずがない。
俺はいつかはこの里を出てあの男を――

兄貴を、探すつもりだから。


「願ったって叶う訳ねえだろ。俺たちは・・・忍者なんだ」
本当の事を言えずそんな事を言ってみる。
案の定、ナルトは悲しそうな顔をした。
「そう、だけど・・・さ。でも」
「でも?」
「願う事は悪い事じゃないってばよ」
そう言ってナルトは夜空を見上げた。

空色の瞳に満天の星空が映る。

サスケは少し魅入ってしまった。

「オレさァ、前に短冊に願い事して叶った事があったんだってばよ」
嬉しかった〜、と微笑む。
「フン、どうせくだらねえ事だろ」
「くだらなくないってばよ!」
ムキになって反論する。
「じゃ何て書いたんだよ」
「それは・・・内緒!!」
「やっぱりくだらねえ事じゃねえか。そういえばお前、今日の短冊には
何て書いたんだ?」
聞かれた途端、ナルトはぱぱっと顔を赤くした。
「・・・・・・・内緒!!」
夕飯食うってばよ!とサスケを部屋の中に引っ張り込んだ。



中庭に飾られた笹に二つの短冊が揺れている。
水色の短冊と―――
淡い黄色の短冊。

『ずっと 大好きな人と一緒にいられますように』






end






01年7月6日より再録



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