つたないことば past|will
ああやっぱり降って来た。 再不斬さん、早く帰らないと濡れますよ。 今日はあったかいものが食べたいですね。 うん、お鍋にしましょう。 スキヤキでいいですか? スキヤキビヨリ あ、再不斬さん、そこの白菜取ってください。あとそのシラタキも。 そうそうそれです。有り難う御座います。 ねえ再不斬さん。 …何でもないですけど。 やだなァ、そんなに睨まないでくださいよ。 名前を呼べる相手が居るって事が嬉しいだけなんですから。 名前と言えば、再不斬さんに話しましたっけ? 僕の名前の由来。 あれ、話してませんでしたっけ。 それならお話しますよ…と。 鍋の用意が出来ましたから食べながら話ましょう。 随分本格的に降ってきましたね、雪。 霧の国に居た頃を思い出します。 僕の名前はこの雪に因んで付けられたんです。 「雪のように真っ白で純粋な人間になりますように」って。 純粋に育ってるかどうかは解らないけど、気に入ってるんです、この名前。 あ、ダメですよ再不斬さん、お肉ばかり食べちゃ。 野菜も食べないと強くなれませんよ? ふふ、そうですよね。 十分強いですよ、再不斬さんは。 それで話は戻りますけど。 好きなんです。自分の名前。 何でって…雪が好きだからですよ。 え? だって雪って降り積もるでしょう? 積もって地面が見えなくなって、何もかも覆い尽くして。 そして真っ白になる。 全部隠してくれる。 そうやって自分のした事も覆い隠してくれるようで。 今まで自分がして来た事を悔やんでるつもりはないんです。 人を殺したり、裏切ったり。 それは自分の意志だったから。 でもやっぱり。 あ、やっぱり何でもないです。 何でもないですってば!もう… ねえ再不斬さん。 美味しいですか?スキヤキ。 フフ、そうですか。 有り難う御座います。 ねえ再不斬さん。 あ、今ちょっとウザイとか思ったでしょ? もう睨まないでくださいってば。 僕、再不斬さんと一緒に「仕事」してる時、いつも思い出す事があるんです。 違いますよ。 再不斬さんと初めて会った時じゃないんです。 それは決まって普通の事なんです。 再不斬さんと一緒に泥まみれになって修行したり、 こうやってテーブル囲んでご飯食べたり。 本当にどうでもいい事なんです。 そんな事ばかり思い出して。 でもそのどうでもいい事が大切なんです。 普通の事の繰り返しがとても嬉しいんですよ。 もし僕が死ぬ時も、思い返すのはやっぱりこういう普通の事なんでしょうね。 それでも幸せですよ、僕。 あ! ああもうスキヤキ焦げちゃいましたね。 作り直しましょうか? え、いいんですか? そうですか。 じゃあ、ご馳走様でした。 再不斬さん、またスキヤキ食べましょうね。 そうだ、雪が降ってる日はスキヤキにしましょう! …食べ飽きそうですか? それじゃたまにでいいですから。 一緒に食べましょうね。 これからも。 ずっと。 END 01年7月23日より再録
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