つたないことば past|will
「ハイお疲れ〜。でももうちょっと早く行動できると良かったかなァ?」 ホラもうこんなに暗い。 愛読書を片手にのんびりと木にもたれる呑気な上司は、そう言って空を見上げた。 「そんなコト言うなら先生も手伝えってばよ!」 座り込んでる自分も含めた3人分の抗議としてナルトが大声を張り上げる。 「だって俺が手伝ったら意味ないでショ。これはお前らを鍛えるためにだな…」 「ハイ、嘘!!」 空かさずサクラが突っ込みを入れる。 その隣りではサスケがフンとそっぽを向いた。 今日の任務は畑を荒す猪退治。 一見地味で大した事ではなさそうな任務だが、これがとんだ重労働だった。 標的の猪は普通よりかなり足が速かった。 しかもこれまた普通より凶暴で畑周辺の地理をナルト達以上に把握している。 追って追われて、どつきどつかれ、やっとの思いで捕獲したのは日もとっぷり 暮れたつい先程の事だ。 当然その間、上司であるカカシは手助けもせず(楽しそうに)ナルト達を眺めて いるだけだった。 「ところで先生、その猪どうするの?」 カカシの前に横たわる事切れた猪をサクラは見つめる。 「ああコレ?依頼主に引き渡す事になってる。コイツの肉は大事な食糧になり 毛皮は貴重な売り物になる。ま!これも自然の摂理だな」 カカシは手にしていた本を閉じ、猪の側でしゃがんだ。 「俺達はね、こうやって色んな動物から命をもらって生きてるんだ」 と言ってカカシはポンポンと猪を叩いた。 (そりゃ捕食者の言い分だな) サスケはそっぽ向きながら思う。 弱い者は強い者の糧となる。 それは人間同士でも同じ事で。 「さ、帰るぞ〜。あ、サスケとナルトは猪お願いね」 サスケの心中などお構いなしに言い付け、さっさと歩き出す。 ナルトとサスケは一様にウンザリした表情を浮かべた。 猪を依頼主に引渡し、ナルト達は漸く家路に着いた。 真っ暗な夜道を4人揃って歩く。 時折吹く風が疲れた体に心地よい。 「あ〜ッ!!」 静寂が突然破られ、ナルトの声が響き渡った。 「何よナルト、うるさいわねえ」 だってさ、だってさ!と騒ぐナルトをサクラが睨む。 「あれってばホタルじゃねえ!?」 その目線の先には淡い黄緑色の光が飛び交っていた。 直線を描いたり、或いは円を描いたり。 様々な軌道を残しながら淡い光は暗闇の中で無数に増えていった。 「わあ、キレイ!すごいわね、サスケくん」 「…そうだな」 黒い瞳にもしっかりと光は映し出されている。 「なあ先生!なんでホタルって光るんだってばよ?」 ナルトがホタルを追い掛けながら問うた。 「ん〜…そうだなあ」 カカシは少し間を置いて話し出した。 「ホタルはね。夜にしか行動出来ないんだ。でも体の色、真っ黒でしょ? 夜は真っ暗。体は真っ黒。だから光るんだよ。自分はここにいる、ってね」 どんな暗闇からでも見つけてもらえるように。 闇に、溶けないように。 「ふ〜〜ん…」 ナルトは感心の声を上げる。が。 「…そうだったらいいよね」 とカカシは付け加えた。 なんだよウソかよ〜、と頬を膨らますナルトを見てカカシは僅かに顔が緩む。 そんな他愛のない会話をしている間にも、蛍は舞う。 ココニイルヨ、とでも言うかのように。 四人はなおも蛍に魅入る。 辺りを静寂が支配する。 「お前達」 カカシの声が低く響いた。 「強くなりなさい」 どんな時も自分でいられるように。 心が、闇に溶けないように。 END 01年7月29日より再録
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