※外法帖のCDドラマ、ちゃんと聞きました。まあ、話的には面白いのではないかと。時間的にはもう少し長くても良かったような気もします。しかしOPとして「風詠みて水流れし都」まで収録されていたと言うことは、ひょっとしてゲーム本編に組み込むつもりのシナリオだったのかなあ? などと、変に期待してしまったりして。それと我らが榊さん、叱り役以外の行動も見せて欲しかったです。切に(苦笑)。 さてさて、物語は今回1つの山場を迎えます。(ラストはまだ先の話です念のため)このSSを書く上での一番の目論見が、何とか果たせるといいのですが。 ***************** 茂保衛門様 快刀乱麻!(6)外法帖 他人があたしに見せる態度ってヤツには、いくつかの傾向があるわ。 まずは「オカマ」だの「女々しい」だのと、人の外見だけで中身を判断しようとする、ふざけた輩。《龍閃組》で言うと蓬莱寺京梧あたりがそうね。 ・・・だけど、あたしが今まで会って来た人間の大部分が、これに該当するっていうのは、一体どういうことなのかしら。失礼だと思わない? それともそれだけ、小手先の見かけに騙される人間が多い、ってこと? 次に多いのは『火附盗賊改方与力』って言う、肩書きで見る奴。そりゃまあ、泣く子も黙るって噂の役職ですもの、無視できる対象じゃないのは確かよね。《龍閃組》の大部分がこうだし、後ろ暗いものを持ってる連中なら、どうしてもあたしをこういう意識で見ざるを得ないわ。 そして・・・悲しくもごくごく小数派なのが、そこそこの敬意と好意を持って接して来る人間。これはどうしても、火附盗賊改に属してる連中ばかり。 つまり、仕事であたしとある程度関わらない限りは、こういう態度はとらないのが普通なの。あたしの所謂『男らしくない』風貌と、火附盗賊改って立場は自然他人を遠ざけ、結果嫌悪と畏怖の対象になってるってわけ。 まあさっきも言ったけど、別にあたしは人に好かれようなんて思ってないから、それはそれで好都合だけど。 だから。 「あ、榊さん帰って来たよ」 の声で一斉に振り返った《龍閃組》の表情は、あたしには馴染みのないものばかりだったのよねえ。 ******** 「「「「・・・・・」」」」 ・・・ちょっと。見世物じゃないんだから、人の顔をそう覗き込まないでくれないかしら。珍しいものでも見るようなその表情は、一体何なのよ? 特に蓬莱寺京梧と桜井小鈴の2人!! いつもは眉をひそめて、いかにも嫌そうにあたしを見てるくせに、どうして今日に限ってそんな、困ったような目をしてるわけ? あたしがいない間に、何か異変でもあったとでも言うの? けどもしそうなら、御厨さんが真っ先に報告してくれるはずだし。 「うーむ、人は見かけによらねえっつーか・・・」 「こ、こら蓬莱寺、いくら何でも榊殿に失礼だぞ」 「だってさあ、いかにも気弱そうで腰巾着みたいじゃないか」 「小鈴ちゃん、そんな風に言うものじゃないわ」 ・・・聞こえてるわよ、一応遠慮して声は潜めてるみたいだけど。 まあお陰で、この4人が(特に約2名!!)普段、あたしをどう見てるかってことはよーく分かったけど、だからってそれがどうやって、今あたしを見る目が違ってる事実に繋がるかが、どうしても分からない。 ・・・4人? あたしはそこで、この場の異変に気づきつい、叫んでしまった。 「あの女はどこ!? 何でここにいないわけ?」 「あの女?」 「骨董屋の主だって言ってた、涼浬って女のことよっ!」 「「「「「あ!?」」」」」 《龍閃組》の4人と御厨さんは、あたしに指摘されて初めて気づいたみたいだった。たちまち狼狽の色が浮かぶ。 その場の混乱も、だけど瞬時に収まったけどね。他ならぬ涼浬が、静かに店の奥から帰って来て、こう言ったから。 「私ならここにおりますが、榊様。・・・どうかなされましたか」 ───彼女の表情は先ほどと変わらない、無機質なまま。 「どうかなされた、じゃないわよ。あんた今までどこにいたわけ?」 「あちらに。何やら趣のある骨董品が見えましたので、もっと近くで見たいと思いましたから」 このおおおおおおっ、よくもいけしゃあしゃあと! 胸の中が怒りで煮えくり返りそうだったけど、ここで動じては向こうの思う壺よね。だからあたしは冷静を装って言ってやる。 「あ、あらそう。あなた、さぞや熱心に鑑賞していたのね。蜘蛛の巣に引っ掛かるほど」 「・・・・・っ!」 「と思ったけど、違ったわあ。単なる糸屑みたい。・・・どうかなさったのぉ、髪の毛に手をやったりして。骨董品を眺めるくらいで髪の毛に蜘蛛の巣がくっ付く覚え、あるわけぇ?」 「・・・・・」 ───あたしがお上品に、ことさらわざとらしくイヤミを口にしたことで、どうやらこの場にいた全員が悟ったみたい。 この涼浬って女がこともあろうに屋根裏にでも登って、あたしと笹屋の奥方の話を全部盗み聞きしてた、ってことをね。 全く、油断も隙もあったもんじゃないわ。存在感が薄いとばかり思ってたこの女、どうやら常日頃から、気配を殺す訓練が身に付いてると見たわ。素人臭い《龍閃組》の中では珍しく、本格的な公儀隠密って雰囲気なのは意外だったけど。 「涼浬・・・お前、一体何考えてるんだよ。いくら何でもマズいだろうが、火附盗賊改がいる天井裏に忍び込むっていうのは」 (注意:火附盗賊改がいようがいまいが、人様の家の天井裏にこっそり忍び込むのは立派な犯罪行為です《汗》) 「・・・これも全て、事件解決のため」 「馬鹿野郎。曲者と勘違いされて、天井越しに串刺しにされても文句は言えねえところだぞ。ああ見えても手荒なことで有名なんだからよ、火付盗賊改は」 「私はそのような愚は冒しませぬ」 意外に常識人の蓬莱寺と、静かに暴走するらしい涼浬の口論を背中で聞きながら、あたしはさっきからずっと気になっていたことを聞くことにした。 「・・・時に美里藍、どうしてあなたがここにいるわけなんですか? さっきからの様子から察するに、あなたが久兵衛殿を治療しに来たように思えるんですけど」 「ええ。奥さんから何も聞いていらっしゃらないのですか?」 し、しまった☆ その手があったんだったわ。あまりに衝撃的なことばかり聞かされて、うっかり思い至らなかったけど。 「あたしはあなたの口から直接、聞きたいんですよ」 己の手抜かりを舌打ちしながらも、もっともらしい理屈をこねて尋ね返すあたし。 それなりに説得力があったのか、美里藍は神妙な面持ちで答えてくれたわ。 「そうですね・・・。でも、私がここへ来たのは今日が始めてなんです。所用で来られなくなった先生の代理として」 へ? 初めて来たって言うのに、久兵衛のあの姿を見ても動揺しなかったって言うの? さすが医師の助手だけあって肝が据わっていると言うか、それとも《龍閃組》に選ばれただけある、と言うべきか・・・。 「察するに、あんたに代理を頼んだ先生って言うのが、久兵衛が大火傷を負った時に初めて診察した医師なのね。その先生に何か聞いてないの? 久兵衛の火傷に不審な点があるとか・・・」 「聞いています」 そこで一旦言葉を切り、美里は醍醐の方をチラ、と見やる。彼が「話しても構わん」とばかりに重々しく頷いたのを確かめて、再び話を再開させた。 「その・・・初め先生は久兵衛さんの火傷は、誰かからの呪いのせいかもしれない、そう奥方に聞かされていたそうです。倒れていた久兵衛さんの周囲に、燃えるようなものも燃え残ったものもなかった、と言うことでしたから。───それが2度目に治療に訪れた時は、もうそのことについては何も話したくないと言われた上に、口止め料としていくらか押し付けられたんだそうです。・・・だからその話を先生から聞かされた時、何の事件に巻き込まれたんじゃないかって思って、みんなにも話しました。そしたら・・・」 「どうせ蓬莱寺辺りが首を突っ込もう、とか何とか言い出したってところなんでしょ」 勝手に決め付けて、あたしはそこで話を打ち切った。でもきっと、当たらずとも遠からずだと思うけどね。 ───でもなるほど。奥方の態度の激変は、多分岸井屋の又之助に恫喝されたせいだわ。死罪になるのがオチ、なんて脅されたら、そりゃあ必死になって事件そのものを隠そうとするでしょうよ。とりあえず奥方の主張の一部が、裏付けられた格好になるわね。 そうだわ。どうせ京橋くんだりまで足を運んだ事だから、この際その他の裏を取って帰りましょ。嘘を付いている風にはとても見えなかったけど、彼女の言葉をそのまま鵜呑みにしちゃうと言うのも、愚の骨頂だし。 などと、自分のすこぶる優秀な頭脳にそこまで計画を立てさせてから、あたしは《龍閃組》に背を向けることにした。 「ここでの用事は済んだことだし、帰りますよ御厨さん」 「あ・・・はい」 「ちょ、ちょっと待てよ榊! 俺たちからはちゃっかり情報を得ておいて、お前らの情報は寄越さずじまいかよ?」 案の定、蓬莱寺が噛み付いて来る。やっといつも通りだと溜め息を吐きながら、あたしは肩越しに振り返って言い放ってやった。 「そこの骨董屋に聞けばいいでしょ。それ以上の義理なんて、あたしにはないわね。・・・もう1度言っておくけどこれ以上、あたしたちの仕事に割り込んで来ないで頂戴な」 「・・・・・・」 ・・・だからね。 今までならここまで言えば「何を偉そうに」だの「権力を傘に着やがって」だのと、散々悪しきざまに罵るであろうあんた(蓬莱寺)が、どうして黙りこくってそんな顔をするのよ? 調子狂っちゃうでしょうが。怒るわけでもなく、嫌うわけでもない、一見悲しそうにも見えなくもない目で見られるのって、あんまり慣れちゃいないのよ、こっちはさ。 「榊さん、少し疲れてらっしゃるようだから、あまり無理はなさらないで下さいね」 「そうだよっ。あたしたちに手伝えることなら、手伝うからさっ」 ・・・そういう、極めて協力的な態度にも、ね・・・☆ 笹屋の奥に入ってから戻ってくるまでの間、起こったであろうことに考えを巡らせるうちに、1つの結論にたどり着く。 《龍閃組》のいる笹屋からかなり離れたところで、あたしは静かに口を開いた。 「御厨さん・・・あなた《龍閃組》の連中に、余計なことを話したんじゃないでしょうね? 今回の事件の詳細とか」 「いいえとんでもない! 彼らを介入させたくない榊さんの方針が分かっておりましたし、事件のことは口にしておりません。断じて」 「・・・ってことは『事件以外の余計なことなら』話した、ってことなのかしら」 「・・・・・☆」 無言は肯定。気まずそうに視線を泳がせる御厨さん。 「ったく・・・あの件は、部外者に話して良い話じゃないでしょうに・・・」 あたしが頭痛混じりに思わず呟くと、御厨さんの言い訳がましい言葉がぼそぼそ聞こえて来る。 「そうは言っても・・・彼らは榊さんを誤解し過ぎていますよ」 ・・・うーむ・・・☆ 身内の恥、みたいなことだから詳しくは説明したくはないんだけどさ。 実は以前ちょっとしたことで、御厨さんがとんでもない濡れ衣を着せられたことがあったのよ。その時彼を助けてあげたのが、他ならぬこのあ・た・し♪ あたしとしては堅物一方のこの部下が、そんな大それたことなんて出来ないと分かってたし、どうにも理不尽な決定だと思ったから行動を起こしただけなんだけどね。それ以来どーも彼ってば、必要以上に恩義を感じちゃってたみたい。だから《龍閃組》が「よくあんな上役に仕えていられるな」等々に始まるあたしの悪口ばかり言うのを見かねて、ついその時のことを喋っちゃった、ってところなんでしょ。それ以外、あいつらがあたしを見る目を変えた理由に、心当たりなんてないもの。 ・・・まあ、親切にしてもらったことに対して報いたい、って言うのは人間として当然な心理だし、恩知らずを部下に持った覚えもないんだけど・・・何かこう、こそばゆいと言うか、むず痒くなっちゃうじゃない。ダメなのよあたし、そうやって面と向かって誉められたり、慕われるっていうのが。 我ながらひねくれてるとは思うけど、生まれ持った性格ですからね。しょうがないんだってば。 「と、とにかく、笹屋の奥方の証言の裏をとりますよ、御厨さん」 照れ隠しに咳払いをしたあたしに、この朴念仁のはずの部下は、何とも形容しがたい苦笑を漏らしたのだった。 「・・・お供仕ります」 ***************** *今回またもや容量過多のため、二つに分けます。前編が短いけど、キリがいいところで分けたいと思ったせいなので、勘弁してください。
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