ちゃんちゃん☆のショート創作

ちゃんちゃん☆ HOME

My追加

茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・後編 外法帖
2002年04月14日(日)

※続きです。原稿用紙20枚分って結構少ないなあ、そしてそれだけの文章に纏め上げるのって難しいよなあ、と思っています。精進しないと。

**********

茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・後編 


 そうして京橋で一通りの成果───又之助が頻繁に笹屋を訪れていたことや、最近眠れないと久兵衛自身がこぼしていたことなど───を得たあたしと御厨さんは、夕刻近くに火附盗賊改方役宅へと戻って来た。
「あ、親分、今帰りっすか?」
「おう、お前もか与助」
 ちょうど探索に出かけた帰りらしい与助と、門のところで合流して中へ一緒に入る。

「・・・それで与助、あなたの方は何かめぼしい手がかりでも見つかったのですか?」
 とりあえずあたしたちは、奥の詰所で与助の報告を聞くことにした。
 ちなみに、あたしが笹屋の奥方から得た情報については、御厨さんにはざっと大まかに説明はしてあるけど、与助の方にはまだである。・・・一応断っておくと、別に与助をないがしろにしているわけじゃないのよ。あたしとしては私情がなるべく入ってない情報を聞きたいから、先入観をまじえたくなかったってわけ。
「へい、色々と面白い・・・じゃなくて、込み入った事情が岸井屋にあったらしいことは、掴んで来やしたよ」
 どうやら出先で手応えがあったらしい与助は、妙にわくわくとした口調で話し出す。

「まずは岡場所に行ってみたんですけどね。又之助の奴、どうも夜の相手を毎晩『とっかえひっかえ』していたらしいっす」
「毎晩?」
「・・・単なる助平って意味じゃないの?」
 与助ってばやっぱり真っ先に岡場所へ行ったのね、とか、それら全部の遊女と話をしてデレデレしていたんだろう、とか、色んなことを胸の奥に押し込めたまま、あたしはそっけなく返したんだけど。
 与助はと言うとちっちっちっ、と人差し指を左右に揺らし、それは嬉しそうに付け加える。
「それもないって言えば嘘になるんでしょうけどね。ここからが本題っす。・・・なんとそいつら全員を、又之助は何故か同じ名前で呼んでたんだそうで」
「同じ名前だと?」
「へい。それが驚くじゃあございやせんか。『おろく』って呼んでいたんですよ」

 ───あたしと御厨さんは思わず、お互いの顔を見合わせずにはいられなかった。
 その名前自体はこの江戸じゃ、そんなに珍しいものじゃない。
 だけど、今回の場合『おろく』と聞いて連想するのは、先日火あぶりに加せられた火付け犯だけ。
 弟可愛さのあまりに火を付け、挙げ句その弟すら死に追いやってしまった悲劇の女。そして岸井屋・又之助と笹屋・久兵衛を繋げるきっかけを作った、小津屋大火事の火付け犯・おろくだけ───!

「どういうことだ・・・本当に1月前のあの火事と又之助は、何か関係があったと言うのか・・・?」
 そううめく御厨さんをよそに、与助の説明は続く。
「とにかく又之助が、自分が買った遊女を皆『おろく』って呼んでいたのは間違いないっす。彼女たちの本当の名前がおふさだろうがおみよだろうが、そんなのを無視して『おろく』と呼んでたってんでさあ。・・・まあ遊女たちも商売だから、そういう名前が好きなのか、或いは片思いの女の名前だろうって納得して、又之助から呼ばれるままにしてたってことで」
「それで、又之助がそんな酔狂な真似をするようになったのは、いつからなの?」
「確か九日前と聞いておりやす。帰る時刻はその日によって違ったんですが、来るのは必ず日が落ちる前だった、と」
 ふん・・・岡場所に通うようになったのは、久兵衛があんな無残な目に遭ったのを知ってから、ってことになるわね。おろくの火事が起きてから、じゃない辺りに引っ掛かりを覚えるわ。
「・・・遊女たちから見て、又之助はどんな様子だったって聞いてる?」
「いつも脅えていたらしいっすよ。結構尊大な感じなだけに、閨では妙に怖がったりしがみ付いて来たから、内心いい気味だって思ったり、優しい遊女辺りになると逆に母性本能くすぐられてたみたいっすけどね」
 久兵衛同様、夜脅えていたってことか。まあ・・・呪いとか鬼とか物の怪とかが出てくるとすれば、日中よりは夜だからねえ。夢を見るのも夜だし。
 だけどだからって、どうして又之助が遊女を『おろく』呼ばわりしていたかが理解できないわ。まさか彼女に横恋慕していたわけでもあるまいに。

「旦那、榊の旦那、話はまだ終りじゃありませんって」
 ついつい自分の考えに没頭していたあたしは、与助に袖を引っ張られてやっと我に返った。
 慌てて続きを促す。
「・・・聞かせてもらいましょうか」
「へい。で、今度は火事で焼け出された連中のことを調べようと思って、日本橋へ行ったんですがね。そこで妙な話を聞いたんですよ。又之助が言い争いをしてたのを見かけた、って」
 日本橋って、確か火元の小津屋があったところよね。与助も随分頑張って調べてること。
「言い争い? 誰とだ?」
「その辺では結構『顔』の、油売りの行商人だそうで。何だか険悪な雰囲気だった、って言ってましたよ」

 油売りの行商? あれ、どこかで聞いたような・・・。
「どんな油売りだ? 何か特徴でもないのか?」
 あたしの心中を読み取ったような御厨さんの言葉に、与助はあっさりと答えた。
「赤いお守り袋を首から下げてる奴、とか言ってたなあ。とにかくそいつが、死んだ又之助につかみ掛かってたらしいっすよ。『一体どういう事なんだ』とか『そんなつもりであんたに預けたんじゃなかったのに』とか、怒りまくっていたって話でさあ」

 ・・・ちょっと待ちなさいよ。赤いお守り袋を持った油売りって・・・!

「榊さん、よもやその行商人って、自分が火付けじゃないことを証明してくれると岸井屋が言っていた、あの・・・?」
 御厨さんの問いかけに、あたしは黙って頷くしかなかった。
 ───何だか変な話になってきたわね。まさかその油売りとやらが、何かがきっかけで又之助を怨んでて、挙げ句の果てに呪いか何かで殺した、とか言う安直なオチだったら、怒るわよあたし。
 でも、確かにその言い争いの原因は気になるし・・・。
「それで、その口論を見掛けたのはいつなの?」
「確か・・・おろくの火事の後だって話ですぜ。そいつは火事後の瓦礫を片づけてた時に、2人を見掛けたって言うんですから」
 きわめて信憑性の高い時間証言ね、それは。少なくとも日本橋じゃここしばらく、小津屋前後には火災は起きていないはずだから。

 しかしこうなったら、実際にその油売りから話を聞いた方がいいのかしら。寝込んでるって話だったから、あまり無理強いはしたくないんだけど。
 それに、やらなきゃいけないことも山ほどあるし。おろくと又之助が過去に何らかの関係があったかどうかとか、他にも・・・。
 積み重なる命題の多さに疲れてたんでしょうね。あたしは知らず知らず眉間を指で揉み解していることに、御厨さんに声をかけられるまで気づかずにいた。

「・・・榊さん、お休みになられてはいかがですか?」
「何を言ってるんですか。まだ眠るには早い時刻ですよ」
「それはそうですが、随分お疲れのご様子ですし」
「あたしを年寄り扱いしないで下さる? 疲れてなんていませんよ」
 とっさに眉間から指を離したあたしに、御厨さんは咳払いをしてからぼそり、と言う。
「榊さんご自慢の・・・その、美貌が台無しになるんじゃありませんか。寝不足は美容の大敵だって、常日頃おっしゃっておられたでしょう」
「ゔっ☆」
 い、痛いところ突くわね。
「それに、上役が休んで下さらないと、下に仕えている者も気兼ねして休めませんし。・・・与助、お前もう疲労困ぱいだろう?」
「へ? いやおいらは、まだそんなには・・・」
「疲労困ぱいだな?」
「・・・・・・へ、へい、じ、実はそうなんでして。いい加減家に帰っておねんねしたいかと、へいっ」

 こらこら、そこで子分に凄んでどうするのよ。
 でも・・・御厨さんにここまで心配かけるってことは、あたしの顔色が相当悪いって証拠なんでしょうね。身に覚えがあるだけに、反論する気力もないわ。
 しょうがない。ここはお言葉に甘えさせてもらいましょ。
「・・・そうね。与助、今日はもう下がっても構わないわ。また明日から働いてもらいますから、ゆっくり休んで頂戴」
 鷹揚に申し渡してから、御厨さんにも声をかける。
「折角ですから、仮眠を取らせていただきますよ。でも何かあったら、すぐに起こしに来て頂戴」
「はい、ごゆっくりお休み下さい」
「・・・仮眠だって言ってるでしょうが」



 寝床が敷かれた静かな部屋に入った途端、あたしは眠気を自覚した。
 だけどゆるゆると羽織を脱ぎ、布団に潜り込もうとした時、ふと思い出したことがある。

<ああ・・・そう言えば、御厨さんには大まかな話ばかりしてたから、まだ教えてなかったわね。久兵衛がお金が入った巾着袋を失くした、って奥方の話。ううん、でも・・・大した事じゃないし、事件とは無関係だから・・・後でもいい、か・・・>

 まるで泥沼に引きずり込まれるがごとく。それ以上の思考能力は完全に麻痺してしまい。
 あたしは一気に睡魔の甘い囁きに、取り込まれていくのだった・・・。

《続く》

**********************
※まずは第1課題、クリア〜!!
 このシリーズを書こうと決意した理由、それは、《龍閃組》及び鬼道衆に榊さんの男気を認めさせてやる! という願いでした。何せゲーム中で、陽壱拾壱話での榊さんの武勇談を知っているのって実のところ、火附盗賊改の連中とプレイヤーだけなんですものねえ。おまけにその後榊さんはほとんど姿を現さなくなるし・・・。まあ、ゲームストーリーに直接関わる話じゃないから仕方がないのかもしれませんが、せめて二次創作の場でだけでも救済してあげたい! と切に思ったわけです。榊さんにとってはいい迷惑かも(苦笑)。
 つまり、鬼道衆側に榊さんを見直させてやる作業が、この後に残っているわけだったりします。って言うより、むしろこっちの方がメインかも知れません。だって陽では少なくとも火附盗賊改らしく、長屋の見回りをするように御厨さんを叱り飛ばしてるシーンがあるのに、陰ディスクでの榊さんてば、出番が少ない上にすっかり小悪党なんですから・・・(涙)。ちゃんとストーリー展開は考えてありますので、もうしばらくお付き合い下さい。






BACK   NEXT
目次ページ