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茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−2 外法帖
2002年04月27日(土)

*また長くなってしまって申しわけありません。
おまけにこの(7)ー2に限り、後日加筆訂正の予定ありです。急ぎ働き・・・もとい、やっつけ仕事の執筆なんぞ、やるもんじゃありませんな。でもせめて休みに入る前に、このコーナー更新していきたかったもので・・・。
 これからしばらく、PCの前にはいません。5月3日辺りまでですけど。よかったら感想とか、下さいね。約1名申告してくださった以外、誰も感想くれないんですもの・・・(涙)

(4月29日加筆)
※と言うわけで、加筆修正しました。話の内容自体はあまり変わっていないのですが、具体的な描写を入れることで、隠された事件のおぞましさが伝わってくるのでは、と思います(汗)。一度でいいから人死にが出ない謎解き話、書いてみたいんですけどねえ・・・。では。

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茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−2



「・・・榊さん、一体今のは何だったんですか? 又之助のあの引っ掻き傷に関しては、ちゃんと報告があったはずでしょう」
 子供相手に大人げない口論をしたことで、御厨さんは呆れ顔をあたしに向けたけど、その問いにあたしは答えてあげない。あえて。
 代わりにあたしがしたのは、別室から湯飲みを持ってくることだった。これは以前うっかり床に落としちゃって、飲み口の部分にヒビが入っちゃったやつ。気に入った形だったから直そうかとも思ったけど、実験にはちょうどいいわ。
 呆気に取られている御厨さんをよそに、あたしは湯飲みを布にくるんだ状態で机の上に置き、まず上から拳で思いっきり! 叩いてみた。

 ごすっ!

「・・・・・・いったあいぃ・・・☆」
 や、やっぱりあたしの腕力じゃ無理みたいね。
 お次は湯飲みを床に立て、手で支えた状態で足で蹴飛ばしてみる。

 がつん!

 ううっ・・・例え蹴りでも単に足袋越しでだと、痛いのには変わりはないわ。でも今度は我慢我慢。
 さっきよりは力が入ったみたいだけど、それでも納得の行く結果が出ない。
「榊さん、さっきから一体何を・・・その湯飲みを割って、何をなさるおつもりですか」
 それでも御厨さんは、あたしがどうやらその湯飲みを自力で割ろうとしていることだけは、把握したみたい。
 まあ、あたしの部下としてならそのくらい頭が働かないとね。欠片が飛び散らないようにと布に包んじゃった辺から、勘付いたってところかしら。

「・・・ダメね。御厨さんならあるいは、割れるかもしれないけど」
 つれない湯飲みを、つんつんつつくあたし。
「私が試してみましょうか?」
「それじゃ意味がないのよ。あたしみたいに非力な人間にでも割れるかどうか、の実験なんだから」
 言いながら、最後にあたしが持ち出したのは巾着袋だった。
「榊さん、それは大事な物証で・・・」
 そう。今あたしが手にしてるのは、さっき岸井屋が持ってきた血まみれの巾着袋なの。
 御厨さんが止めるのも聞かないで、あたしはその巾着袋をゆっくりと湯飲みの上へと移動させ───そのまま落とした。

 がっしゃーん!!

 予想に違わず、湯飲みは粉々に割れてしまった。

「・・・よねえ、やっぱり」
 あたしは巾着袋と、原形をとどめない湯飲みの包みを見比べながらひとりごちた。
「こんなに固い湯飲みでさえこうなっちゃうんだから、もしこれが人間に振り下ろされたりでもしたら、単なる巾着袋でもれっきとした武器になっちゃうわよねえ」
「なっ・・・!?」
 あまりに飛躍した結論に、御厨さんが息を呑むのが分かる。
「ましてやそれが、体の弱い子供相手なら・・・昏倒させるのくらい、わけありませんよね」
「ま、待って下さい榊さん! いきなりどうしてそんなことを・・・大体この巾着袋は、岸井屋の持ち物ではないと言う話では・・・」
「・・・事件に関係してるとはまさか思わなかったから、あなたにはうっかり言い忘れていたんですけどね、御厨さん」
 あたしの視線は哀れな『犠牲物』から、御厨さんへとゆっくりと移り、とどまる。

「先ほど訪問した笹屋で、あたしは奥方から打ち明けられたんですよ。亭主が持っていたはずの巾着袋が、おろくの火事以後見当たらないのだと。小銭も相当入っていたはずだと。・・・そして何より久兵衛自身、巾着袋なんてどうでもいいと、新しい巾着も作りたがらなかったそうなんですよ」
 ───御厨さんの青褪めた顔がゆるゆると、驚愕から絶望の表情へと変貌していくのを、でもあたしはどこか他人事のように眺めていた。

************

 多分───あたしと御厨さんは今、同じような情景を思い描いていることでしょうね。

 刻は1ヶ月前。姉の凶行を止めるべく、病の身を押して日本橋の呉服屋・小津屋を目指す、おろくの弟・勇之介。
 それが小津屋の裏手にたどり着いたところで、いきなり後ろから殴り掛かられ、必死に抵抗するもあえなく昏倒・・・。
 血の滴り落ちる巾着袋を、悲鳴を上げて放り投げるは笹屋の久兵衛。それを拾い上げるは岸井屋の又之助。
 2人は1度だけ振り向いたけれど、それは勇之介が起き上がらないことを確かめるため。微動だにしないのを見て取るや否や、一目散にその場を立ち去る。
 そして・・・小津屋は炎に包まれた・・・・・!!


 火付盗賊改を勤めるようになってから、何となく分かるようになった心理なんだけど。
 ごくごくまっとうな生活をしている人間がうっかりある日、人を傷付けてしまったとする。そして自分のその犯罪を、世間から隠そうとしたとする。
 すると人間の当然の心理として、その犯人は凶器なり事件を連想するものなりを無意識のうちに、避けてしまう傾向があるのよ。事件を自分自身思い出したくないと言うことと、下手な尻尾を出したくないって言う、自己防衛本能からね。

 今回にもこの法則が、当てはまらないかしら?
 巾着袋を無くしたくせに、新しいものを作りたがらなかった久兵衛。
「死んだ勇之介と似たような年頃の」息子を近寄らせたがらず、「顎の傷を作ったはずの」飼い猫は可愛がっていたと言う又之助。
 そして───彼ら2人が襲われた時、どちらも『自分たちは小津屋の火事とは無関係だ』と言わんばかりに、発火しそうなものは何も持ちあわせていなかった、と言う、一見偶然にも見える共通点───!

***************

「まさか・・・まさか榊さんは、岸井屋と笹屋がおろくの火付けを知りながら止めなかったどころか、それを止めようとした弟まで見殺しにしたと、そうおっしゃるんですか・・・? そ、それじゃあ岸井屋は、万が一にも久兵衛の口から事件の真相がバレないようにと、共犯の質草としてあの巾着袋を預かっていたと・・・!?」
 真っ正直な御厨さんだけに、あたしが立てたあまりにおぞましい仮説を、そしてその結論へ到達するに至った自分自身の心を、信じたくないに違いない。
 けれどそれを否定するには、あまりに状況証拠が揃い過ぎていて。
「・・・物的証拠はどこにもありませんよ、御厨さん。それに・・・それを証言する者も、もう誰もいやしない。勇之介と岸井屋は焼け死に、笹屋は廃人同然。それこそイタコにでも縋るほか、ないじゃありませんか・・・」
 何の慰めにもならないと分かっていながら、あたしは自分自身の心の平静のために、そう告げることにした。

 ───おそらくは。
 焼死した勇之介の怨霊だわ。岸井屋・又之助と笹屋・久兵衛を襲ったのは。
 久兵衛は襲われた瞬間、そして又之助は久兵衛の様子を奥方から聞いて、そのことに勘付いたに違いない。
 だから又之助は、久兵衛が襲われてから死ぬ直前まで、岡場所の遊女たちに庇ってもらっていたのよ。彼女たちの名を「おろく」と呼ぶことで、姉大事の勇之介が自分を害せないように・・・!

 けどこれはもはや、あたしたち火附盗賊改の仕事じゃない。鬼や物の怪の専門家とも言える《龍閃組》の領分だ───。
「明日にでも・・・龍泉寺の連中に、この事件の収拾を頼みに行くことにいたしましょう。そうすれば・・・勇之介とやらの迷える魂も、何とか見つけることぐらいはできるでしょうから・・・」
 そう、強がりを呟きながら。
 自分の無力さに、あたしは拳を固く握り締めるしかなかった。

《続》
****************

*・・・というわけであります。これじゃあ怪奇モノと言うよりは、二流推理小説と言った感じですな(苦笑)。
 ところで文中、榊さんの過去やら家族構成やらが色々と出てきますが、もちろんこれはちゃんちゃん☆ のかんっぺき! な創作であります。だってえ、榊さんの人間像に関しては、初期に出版されたコー●ーの攻略本にしか、書かれてないんですもん・・・(涙)。あ、でも、そろそろ発売予定の外法帖関連本って、確かキャラクターに焦点を当てているそうだから、少しは榊さんの家族構成とか分かるのかしら。
 でも・・・もしちゃんちゃん☆ の想像と大きく隔たっていたらどおしよお・・・CDドラマ発売後と同じような墓穴を、せっせせっせと掘りまくってないか、をい(汗)。でも、陰ディスクでの行動を見る限り、腕っ節や武術に関してはからっきし、ってところは当たらずとも遠からず、だと思うんだけどなあ・・・。
 ちなみに、文中で出てきた「牝誑(めたらし)」と言う言葉は、皆さんもご存知であろうあの「鬼平犯科帳」で使用されているものから拝借しました。盗賊にも多分そういう役目はあったんだろうけど、実世界ではどのように呼ばれていたかは、ちゃんちゃん☆ は知りません。念のため。






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