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茂保衛門様 快刀乱麻!(9)前編 外法帖
2002年07月21日(日)

※気が付けば2ヶ月以上、間空いちゃってましたねえ(汗)。その間にも、6月某日には茂保衛門さんの誕生日が来るわ、律義な坪井さんがわざわざ「来楽堂」においでくださるわ、いおりんさんもご自分のHPにて榊さんSS書いて下さるわ、で、結構忙しくも楽しかったですけど。
 さて今回の話にて、絶対避けて通れない辛い真相が明かされます。当事者と第三者それぞれの言い分・・・それらは決してどちらも間違っているとは言えないんですよねえ。結果がどうあれ。難しいです。
 では本文行きます!

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茂保衛門様 快刀乱麻!(9)前編



「《鬼道衆》、だと・・・?」

 自分の発言が失言だってあたしが気づいたのは、御厨さんがうめくように呟く声を聞いた瞬間。

 ───マズい、マズいわよコレはっ! 一体どう言い訳すればいいのっ!?

 でも、てっきり堅物な部下から追及されるかと思いきや、彼の険しい視線は奴ら、《鬼道衆》3人に釘付けになったきり。
 ・・・どうやらこの唐変木、目の前の緊急事態にめいいっぱいで、あたしが口にしたことをこれっぽっちも不審には思わなかったらしい。
 やれやれ、と胸をなで下ろすあたしに御厨さんは気づきもせず、いつも通りの生真面目さを発揮する。

「貴様たち・・・まさかここに来たのが偶然、などと戯言を言うつもりではあるまいな? 何を知っている?」
「何、とは?」
「とぼけるな! ここで起きた・・・ムゴッ!?」
 でも、詰問を続けかけた御厨さんの口を、あたしはとっさに後ろから手を伸ばすことで塞ぐ。
 ゴメンナサイね。でもここで真っ正直なあんたが何言ったところで、状況は進展しないと思うのよ。

「ここで起きた・・・何だと言うのだ?」
 白々しくも僧装の男がそう尋ねてくるけど、あたしはもちろん信じやしない。
 こうなったら賭けだわ。こっちは《鬼道衆》の企んでることなんかみーんな分かっちゃってる、ってフリをして、向こうがどんな反応を見せるか確認してやる!
 《鬼道衆》の方へとゆっくりと一歩踏み出したあたしは、余裕を装って口火を切った。

「・・・知らん振りするのはよしましょうよ、お互い。あたしたちにはとりあえず分かっちゃってるんだから。
例えば・・・ここで焼け死んだ、火付け犯のおろくの弟・勇之介が、あまりの無念ゆえに成仏できずに迷っていたとか。彼がここで火事に巻き込まれた本当の真相は、おろくの凶行を止めに来たにもかかわらず、目の前の保身に目が眩んだ2人ばかりの男たちに殴られて気絶させられた挙げ句、置き去られたせいだとか。
・・・で、彼ら姉弟の怨みをこの際、幕府の足元を揺るがせる材料として利用できないか。そう企んだどこかの誰かさんが、復讐する術を何も持たなかったはずの勇之介に、呪殺の手ほどきをしたとか。そしてめでたく、先述の2人を呪いの炎で殺すことに成功し、世間を恐怖に陥れることに成功しつつある、とかね・・・」

 あたしの言葉にあいにく、サッと顔色が変わったのは風祭と、桔梗、と呼ばれた女の方だけ。
 肝心要の僧侶? は少し眉をひそめただけである。
「ほう、それは興味のある推理だな。・・・だが、いわれのない嫌疑をかけられるのは正直言って、迷惑極まりない。何の証拠もないのに言い掛かりを付けるのが、ひょっとして火附盗賊改のやり口なのか?」
 ・・・どころか、いけしゃあしゃあととんでもないことまで言う始末。
 フン。こっちもそう簡単に口を割ってくれるとは思ってませんけどね。引っかけるにはもっと大きいエサが必要みたいだわ。

 だからあたしは、少々悩ましげな目をして男に擦り寄ることにしたの。
「まあまあ、そんなに目くじら立てなくたっていいじゃないですか。あたしは取り引きをしようって言うんですよ」
「・・・取り引き?」
「ええ。実はねえ、御厨さんは頭でっかちで正義感が強いから、この件を《龍閃組》に任せようって考えてるらしくって。知ってるでしょ? あんたたちも《龍閃組》のことはさ。・・・けどあたしは反対なの。呪い殺された2人は言わば自業自得だったんだし、今更怨霊退治ったってあたしの出世にはなーんの役にも立たない。
・・・だったらどうせだから、勇之介の怨霊をアタシに貸してくれないかしら? って思って。あたしの出世に邪魔なお偉方とか、呪い殺すのに使えたら最高v じゃない?」
「・・・・・・・・榊さん!? いきなり何をおっしゃるんですかっ!?」
「幸いって言うか、このことに勘付いてるのはあたしと御厨さんだけなんですよ。だから後は、御厨さんの口を封じてしまえば万事うまく行くと言うわけ。・・・どうです? 悪い取り引きではないと思いますけどね」
「榊さんっ!!」

 あたしのあまりの言い草に、御厨さんは思い切り声を荒げた。
 と言っても、あたしのけしからん企みを本気で危ぶんでいる、って感じじゃない。どちらかと言えば、あたしがいきなり自分の想像を超えたことを言い出したものだから、頭がついていけないって顔になってる。
 もっとも《鬼道衆》はそんな細かいことなんて気づいちゃいない。単にあたしと御厨さんが仲間割れしたんだと、ウマい具合に誤解してくれたみたいだ。

「てめえ・・・! 仮にも火附盗賊改が俺たちと裏取り引きしようって言うのかよ、しかも仲間まで売って!? 心底腐ってやがるぜ、幕府はよ!」
 怒髪天をついたって形相で拳を握り締めたのは、やはりと言うか、単純極まりない風祭。
「ああ、確かに悪くない取り引きだよなあ。けど、殺して口封じするのは何も八丁堀の方じゃなくてもいいんじゃねえのかっ!」
 言うが早いか、拳を振り上げる。あたし目掛けて。
 ・・・って、いきなりこっちへ来るかあ!? てっきりこれ幸いとばかりに、御厨さんの方に襲い掛かると思ってたのにっ!
 あたしは半分腰を抜かしながら、それでも早口でこう叫んでやった。

「い、いわれのない嫌疑とか言いながら、やっぱり後ろ暗いところがあったのね、あんたたちにはっ!!」

 風祭はハッ、と拳を止める。
 そしてほぼ同時に聞こえたのは、キィン・・・! と言う、刀のぶつかり合う音。
 おそるおそる見たあたしの頭上で、風祭の攻撃を阻むかのように2本の刃物が、交差しているのが見えた。
 1本は、もちろんあたしを庇ってくれた御厨さんの刀で。
 もう1本は───どうやら僧侶の得物らしい、槍である。


「く、九桐・・・」
「お前は血の気が多すぎるぞ、風祭。今のが榊とか言う者の策略だと言うことに、どうして早く気づかんのだ」
 苦り切った顔でその九桐、と呼ばれた僧侶は風祭をたしなめる。
「おまけに今ので、すっかり八丁堀に敵意を抱かせてしまったらしいし、な。この忙しいのに問題を増やしてどうする・・・」
 ───九桐の言う通り。
 御厨さんの今の形相と来たら、さっき背中にあたしを庇ってた時のとは比べ物にならないくらい、怖いものになっちゃってる。彼のこういう表情見るのって、卑劣で凶悪な盗賊と斬り合いになった時、以来だわ。
 あーあ、こうなると経験上、ちょっとやそっとじゃ怒りが収まらないわよ。

「・・・刀を、納めてくれないか八丁堀」
 槍を渾身の力で弾き、再びあたしを背中に庇う格好になった御厨さんに、九桐は話し掛ける。困ったような顔をして。
「貴殿の上司に───榊殿と言ったか、害を加えようとした無礼は詫びる。だがそれは風祭の貴殿への好意の表われだと、解釈してはくれないか? まさかこちらを引っかけるための芝居だとは、風祭は思いもよらなかったのだ」
「・・・榊さんはこれでも、正義感の熱い御方なのだ。上からの圧力にも屈せず、火附盗賊改与力としてのお役を貫こうとしたほどのな。そんな榊さんが、汚い裏取り引きなどするものか! 見くびるな!」
 御厨さんてば、あたしの命の危機ももちろんのこと、あたしが変に誤解されたからって激怒してるみたいだわ。
 その気持ちは分かるし、上司冥利に尽きるって奴だけど・・・そう持ち掛けたのは他ならないあたしなんだし、このままじゃ話が進まないのも事実よね。

「御厨さん。刀を納めて下さって構いませんよ」
 あたしは静かにそう、御厨さんに告げる。
「し、しかし・・・」
「相手にはもう敵意はなさそうです。それにあたしたちに害をなそうって言うのなら、問答無用で一気に斬り捨てるくらいの腕は、持ちあわせていますからね、彼らは」
「だったら尚のこと・・・」
「あたしに考えがあるの。良いから刀をおしまいなさいな」
 渋々刀を鞘に納めつつも警戒を怠らない御厨さんを目の端にとどめながら、あたしはゆっくりと九桐たちへと向き合った。
「・・・それで? あたしたちに何か、話でもあるんじゃないんですか?」

 さっきも言った通り、口封じに殺すのならとっくに彼らはそうしているに違いない。
 でも彼らにはもはや闘争心はないみたいし、わざわざ「刀を納めてくれ」とまで言っている。
 これってつまり、あたしたちに話なり、取り引きなりしようとしているんだって、あたしは踏んだのだけど・・・・・どうやら正解だったみたいだ。

 九桐は言葉を選びながら、って感じでゆっくりと話し始める。
「榊殿、と言われたな? ・・・さっき貴殿が言ったことは、確かにほぼ当たっている。《龍閃組》の力を借りずに、どうしてここまで調べる事が出来たのかは知らないがな。見事なものだ」
 少しは《龍閃組》から情報を得たから、火附盗賊改単独ってわけじゃないけどね。
 心の中でだけそう呟いておいて、先を促す。
「・・・ただ、1つだけ間違っているところがある。彼ら姉弟の怨みを、幕府の足元を揺るがせる材料として利用しようとした、と言うくだりだ」
「・・・どう違うと言うんですか?」
 いきなり何を言い出すかと思えば。
 九桐とやらの主張は、あたしの《鬼道衆》への認識を、再び少しばかりながら軌道修正させらるものみたい。
「我々はおろく姉弟を利用したかったわけじゃない。結果的にはそう見られても仕方がないが。・・・だからこれ以上の被害者を出さないよう、勇之介を説得しにここへ足を運んだのだ。頼む、何か手がかりがあるのなら、我々に教えてはくれないだろうか?」

 説得って・・・。これ以上の被害者って・・・。

「何よそれ? あのおろくの火事の陰謀に、まだ関わってる人間がいるってこと? おまけにそいつがまだ、勇之介に狙われてるって言うの?」
「断定はできないが・・・多分」
「怨みを晴らしたから成仏したとか、だから勇之介の姿が見当たらないとか、そういうことはないのか?」
 険しい表情ながらもお人好しの御厨さんが、彼らしい明るい? 展望を口にしたけど、九桐の首を縦に振らせることはかなわない。
「成仏は・・・出来ない。たとえ本人がしたいと望んでも・・・」
「一体どういうことよそれ!?」
 相手のはっきりしない態度に焦れて、あたしが詰め寄ったその時である。
 今までずっと沈黙を守っていた桔梗、って呼ばれてた女が口を開いたのは。


〜茂保衛門様 快刀乱麻!(9)後編に続く〜




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