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茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪後編≫
2003年12月30日(火)


※とりあえず、このような決着と相成りました。
 まあ本来の火附盗賊改方が、ここまで町人に対して実直だったかどうかは分かりませんが、1人くらいいても良いんじゃないでしょうか。

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「なっ!?」

 あたしの言うことが思いもよらなかったに違いない。《龍閃組》も《鬼道衆》も、当然御厨さんも絶句していたみたいだ。
 しょうがない。やっぱりここは、ちゃんと説明が必要と見た。ふらつく頭を堪えながら、あたしは床に手をついて何とか体を起こした。

「・・・良く考えて御覧なさいな。仮にも人を2人も死傷させた怨霊を、こちら側に1人の怪我人も出さずに退治した、なんて、そうそう信じてもらえるはず、ないでしょうが。不審がられるのがオチだわ。下手をすれば痛く・・・はあるけど痛くもない腹をさぐられて、ここの父娘のことを部外者に知られでもしたら、あたし今度こそ勇之介に呪い殺されちゃいますよ」
「・・・勇之介? さっきからお前ら、あの怨霊のことそう呼んでるけど、一体何者だったんだよ?」

 蓬莱寺が余計な茶々を入れたことと、先ほどの美里藍が事情を把握していないらしいこと、これらの2点からあたしは察した。
 ───どうやら彼ら《龍閃組》は、この件が小津屋大火に端を発していることを未だ知らないのだ、と。
 やはりこうなると、《龍閃組》の権限で今件の全てを誤魔化す、と言う奥の手を使うわけにはいかないだろう。

「後で御厨さんにでもお聞きなさいな・・・ともかく、こちら側が誰1人傷ついてないってことは、今回の事件で何か隠してるから疑ってください、って言ってるようなものなんですよ」

 そう言ったところで、珍しく御厨さんが話に割って入って来る。それも、かなりあせった顔をして。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! まさか榊さん、最初からそれを狙って、あえて火傷を負ったとか言わないでしょうね?」
「見当違いなこと言わないで頂戴っ! 大体何の義理があって、赤の他人のためにわざわざあたしの自慢のお肌を痛めなきゃいけないのよっ!?」
「をいをい・・・☆」
「今、思い切り本音ぶちまけやがったな・・・☆」

 蓬莱寺と風祭が揃って呟くのが聞こえ、あたしは慌てて体裁を取り繕い、コホン、とわざとらしい咳までしてみせる。

「・・・アレは単なる条件反射ってだけです。ただ、この状況をうまく取り込むことにこしたことはないでしょうが?」
「はあ・・・」
「話が逸れたわね・・・あたしが言いたいのは、万が一にもどこぞの無能者がやっかんで、妙な方向にツッコまれでもしたらどうするんですか、ってことなんです」
「どこぞの無能者、って・・・御厨、榊の言ってること、妙に説得力あンだけどよ、以前よく似たようなことでもあったのかよ?」
「さあな」

 いつもは正直者の御厨さんだけど、さすがに今日は見事なまでに心の内を読ませない表情になっている。
 あたしも蓬莱寺の言うことには取り合わないで、話を進めることにした。


「この際だから言っておきますけどね、《龍閃組》。あんたたちは真相を知っても表向きには、何も知らなかった、で押し通しなさい? この件は、小津屋で焼死した正体不明の怨霊が、当日小津屋を訪問しておきながら偶然助かった2人を妬んだ挙句、次々に襲った、ってことにするつもりなんですから」
「小津屋? 小津屋って、あのおろくって女(ひと)が火をつけたって言う、あの・・・?」

 記憶力が抜群らしく、美里藍は「小津屋」って言葉に即座に反応を示すけど、あたしは構ってなんていられなかった。
 ・・・そう。実はここからが正念場。あたしはこれから、一世一代の大博打を張らなきゃいけないんだから。それも、恐ろしくつわもの相手に。

「そう言うわけですから。・・・さっさと今のうち、応援が来ないうちにさっさとこの場を立ち去りなさいな───《鬼道衆》」
「・・・・・・・っ!?」




 今日何度目かの絶句。
 だけど今ほど、一同を驚かせた発言はないと断言できるわ。

 だってあたしや御厨さんは知っている。感情的になった桔梗が勇之介に<力>を与えなければ、今回の騒動は引き起こらなかったであろうことを。
 《龍閃組》は何となく察している。今回の騒動の裏で、《鬼道衆》が暗躍していたことを。
 それなのに、諸悪の根源ともいえる《鬼道衆》を、今、ここで逃がすと宣言したようなものなのだ。それもよりにもよって、盗賊捕縛がその任のはずの火附盗賊改方与力が。・・・火傷のせいで脳でもやられた、と思われても仕方のないことだろう。
 でも、あたしはまともだ。いたってまともだ。こんなにマジメなことは一生涯なかった、って胸を張れるほど。

「し、仕方ないでしょうが? あたしは言ったでしょ、今回の一連の騒動が、勇之介の復讐劇だったってことを表ざたにするわけにはいかない、って。・・・つまり、《鬼道衆》が勇之介をそそのかしたって事実自体、なかったことにしなきゃいけないのよ。分かる?」
「分かるって・・・」

 呆然とうめくように言ったのは、御厨さん。・・・まあ、無理はない話なんだけどね。常識派の彼にとっては、さきほどから想像を絶することの連続でしょうから。

 一方、蓬莱寺辺りはむしろ憤然としてあたしに反論してきた。

「榊お前、自分の言ってることがどんなにアブネエことなのか、ちゃんと分かってるのかよ? こいつらがもし、事件の真相を世間に公表でもしたら、一番立場が危うくなるのは他でもねえ、お前なんだぞ!? 火附盗賊改が悪人と手を結んだ、って言われたら、どうするつもりだよ!?」

 ───そのくらいのこと、あたしが考えないとでも思っているんですか?

 あたしはよっぽどそう主張したかったものの、今はそれどころじゃない。緊張と疲労の折り合いがつかなくなってきたらしく、視界がグワングワンと回り始めていたのだから。
 でも今は具合が悪いことを悟られるわけにはいかないのだ。弱音を見せたら、それでこの賭けは失敗する。

 そして、当の《鬼道衆》にも、あたしの提案を疑問視するやつがいるわけで・・・。

「そんな胡散臭い手に、誰が乗るか馬鹿野郎! 何を企んでいやがる!? 俺たちの弱味でも握ったつもりか? 後で俺たちに何か汚ねえ仕事でもさせる気かよ、そうはさせるか!」

 そう言うが早いか、血の気が多い風祭はあたしに殴りかかろうとした。
 が、横合いから伸びた手が、それを阻んだ。───予想通り、九桐である。

「止めろ風祭。榊殿にはそんな心積もりなどないはずだ。・・・多分な」
「何でそう言い切れるんだよ? あいつは幕府の犬なんだぞ? 俺たちを一旦退散させておきながら後を尾けさせて、俺たちのアジトを突き止めて襲う、ぐらいのこと、俺でも想像つくんだぜ?」
「後を尾けさせる、か・・・」

 ここで九桐は何故か、あたしに向かって何故か複雑な感じの笑みを見せた。
 だがそれはすぐに消える。どうやら風祭を説得しようとしているらしい。

「風祭、お前は覚えているか? そこの榊殿と我ら《鬼道衆》が、初めて相対したのことを」
「忘れてなんていねえよ。無実の罪で捕まえられてた鍛冶屋に、会いに来た子供たちを会わせてやるためにドンパチやったんじゃねえか。・・・ったく、このお堅いお役人が、決まりだ何だって会わせてやらなかった挙句の果てに、弁護に割って入ったなが・・・骨董屋の爺さんまで、とっ捕まえようとしやがったんだからな!」
「え・・・」

 聞き捨てならないことを耳にしたと、御厨さんがあたしに問い返してくる。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 榊さん、《鬼道衆》とコトを交えたことがおありなんですか!? 聞いていませんよ、私は!」

 そりゃまあ・・・教えてませんから。
 でも厳密に言えば、あたしはうっかり御厨さんの前でバラしてるんですけどね。さきほど、小津屋の焼け跡で、こいつらに相対した時に。『よくもおめおめとあたしの目の前に顔を出せたものですねっ!』って。・・・まだ気づいてないのかしら?

 だが御厨さんの言ったことは、九桐にある程度の勢いをつけたようだ。

「だそうだ、風祭」
「だそうだ、って・・・何のことだよ?」
「お前はさっき『後を尾けさせて、俺たちのアジトを突き止める』と言ったが、それはまずありえない、良い証拠だと言う意味だ」
「どこがだよ?」
「考えてもみろ、俺たちが榊殿と相対した時、我らはしっかりと名乗っているのだぞ? 《鬼道衆》だ、と。もし榊殿が、お前の言うとおり卑怯でズルい人間なら、とっくにその時に尾行されていると思わないのか? 幕府の過失を隠し、全ての罪を我らに押し付けるために。
・・・だが実際はどうだ? 鍛冶屋はあの後ちゃんと赦されたし、正しい処罰は下された。それにあの日我らが一旦引き上げる時、誰か・・・榊殿の手のものらしき人間でも後を尾けて来ていたか? 来ていまい?
それどころか《鬼道衆》と一戦やらかしたこと自体、隠滅させられている感じだ。何しろ一番の腹心といって良い御厨殿が、そのことを知らないのだからな」
「あ・・・・・!」
「誰がそんなことをしたのか? ・・・決まっている。その当時指揮をとっていた、榊殿だ。実際、あの戦いでは死者どころか、ロクに怪我人も出てはいないしな。誤魔化そうとすれば何とでもなる」


 九桐ってばよくもまあ、そこまでスラスラと言葉を並べ立てられますこと。・・・結構鋭い推理ではあるけどね。

 思いもよらない方向から固定概念をひっくり返され、茫然自失になっている風祭。けど、凝り固まった考えを変えることなど、そうそう認めたくないようで。

「そ、そんな馬鹿なことがあるかよ!? あいつは幕府側の人間なんだぞ? そんなたわ言、俺は信じられねえぞ!」

 ───別にアンタに信じてもらいたいから、そうしたわけじゃないわよ。

 あたしの心のツッコみをよそに、九桐は尚も言葉をつなぐ。・・・半分はオロオロになっている風祭を、からかってる風だけど。


「では風祭、さっき榊殿に出くわした時はどうだった?」
「どうだった、って・・・」
「勇之介の怨霊の件が、我らの仕業と知った時、榊殿は何と言ったか、覚えているか? 風祭」

 その質問に答えたのは、だが風祭ではなかった。

「『見損なったわ《鬼道衆》。あんたたちはやっぱり、鬼でしかないのよっ!』・・・だったね」

 さきほどからずっと黙っていた、桔梗の声が聞こえる。

「桔梗・・・」
「見損なった、って言葉は、一旦はあたしたちを見直していないと出やしないよ、坊や。多分榊はあたしたちがあの時、鍛冶屋父子を会わせてやりたくて一戦交えた、ってことに気づいてたんだ・・・そうだろう? 九桐」
「ああ。多分、我らが牢屋に兄妹を連れて行った時、こっそり後を尾けていたんだろうな。2人に危害が加えられるのではないか、と危惧して」
「そ・・・そりゃあの時、誰かがコソコソ着いて来てたことは俺も勘付いてたけどよ・・・まさかこいつだっただなんて・・・何でだよ? あの時、俺たちが手下たちを倒したら、一目散に逃げちまったじゃねえかよ・・・」

 そ、そういうこともあったわね☆

 自分の過去の臆病さを悔いながらも、注意深く伺っていたあたしに、ついに勝利の神様が舞い降りた。
 九桐が、桔梗が、渋る風祭を宥めて、戦線離脱を宣言したからだ。

「提案は承知した。今日のところは榊殿、貴殿の顔を立てて引き上げることにする。
・・・だが、そうそう2度目があるとは思うな?」

 そう言って。
 彼らは裏口からすばやく、音もなく退散して行ったのだった。


 ・・・彼らが出て行ってからしばらくの間、あたしも、他の皆も声がない。


「ちょ、ちょっと皆! さっき屋根の上走って行ったの、《鬼道衆》じゃなかったの!? 一体何があったのさ!?」

 部屋に入れなかったことで、蚊帳の外に置かれた形になる桜井小鈴がそう言いながら飛び込んで来る。
 それであたしたちは、《鬼道衆》が本当に引き上げて行ったことを知ったのだけれど。

「マジかよ・・・あいつら、大人しく引き上げて行ったぜ?」
「戦わずして相手を引かせる───理想にして最も難しい戦法の1つですね。見事です」

 蓬莱寺と涼浬がそう言っているのが聞こえたけど、あたしは既にまともに体を起こしてなどいられなかった。

<引いた・・・《鬼道衆》が本当にあたしの言葉に乗って、ちゃんと退散していった・・・。一度はコテンパンにやられたことのある、あの《鬼道衆》が・・・。それも、今度は誰も怪我していないじゃない・・・。
ははは・・・少しはあの時から進歩した、ってことかしら・・・?>

「良かっ・・・」
「榊さんっ!?」

 上司の様子がおかしいことに気づいた御厨さんが、焦った声を繰り返すのを聞きながら。
 あたしの意識は急速に、暗闇の中へと堕ちて行ったのだった・・・。


≪続≫

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※や・・・やった・・・2003年中に何とか、ここまでたどり着けた・・・!
 後は終章を残すのみです。ここを読んで下さる方が一体何人いらっしゃるかは知りませんが、どうか最後までお付き合いください。
 だけど終章書けるの、一体いつになるだろう。出来たら『血風帖』発売までには何とかしたいものですけど。





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