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しもさんの「新聞・書籍掲載文」
しもさん
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1995年09月23日(土)
気分や心を写すへのへのもへじ(37歳)

静岡新聞 朝刊(読者のページ)

たった七文字の平仮名で表現された、誰もが知っている
「へのへのもへじ」。
何気なく書いてみたら、案外二枚目になって気分がよくなった。
もう一度書いてみたら、今度は怒って見えた。
調子に乗って何度も書いてみたが、
同じ表情の「へのへのもへじ」はやっぱり書けなかった。
気分によって違う彼の顔は、自分の心を見透かされているようで
なぜか怖かった。
しかしどの顔も口を「へ」の字にキュッと結び、ちょっと近寄りがたい。
どんなにまゆ毛や目、鼻を優しくかいても駄目である。
何とかして「笑顔」が書きたいと考え込んでいた私の横で、
小学校五年の娘が「口を『し』にすればいいよ」とぼそっと言った。
なるほど。今度は何度書いても、笑顔になる。
どんなにまゆ毛や目、鼻の「へのへのも」を怒っているように書いても、
笑顔になる。不思議なものだ。
田んぼのかかしは「へのへのもへじ」だけど、
人間の顔は「へのへのもしじ」でありたい。
そして、笑顔いっぱいに囲まれて生活ができたら、
どんなに幸せなんだろう、と思う。