「硝子の月」
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2001年09月28日(金) <街にて> 朔也、瀬生曲

「らっしゃいらっしゃい! 奥さん娘さんの土産にどうだい旦那!
 おっと姐さん、お似合いのブローチがあるよッ! 真珠のネックレスなんかもどうだいッ?」

「ねぇおニイさん寄ってかない? 今なら歌姫ベラルーナの歌をいい席で聞けるわよ〜っ。
 お酒もお料理も保証つき! ねぇねぇ、どうっ?」


 慣れない喧騒に圧倒され、少年はうろうろと街を歩いていた。夜の街に入るのは、そう言えば初めてである。

 最初の街に着いた頃にはもう夜だった。月も高く辺りは暗く、せめてどこか寝る場所くらいは見つけなければならない。

(…どーするよ、オイ…)

 途方に暮れて天を仰いだ。当たり前だがお天道様も見えやしない。
 持っている金は雀の涙、野宿の場所でも探さねばならないだろう。

「明日になったらまずは仕事探しだなぁ…。
 なあアニス、今日はどこで寝る?」
「ピィ」
 ぶつぶつ呟くティオを慰めるようにルリハヤブサが鳴いた。

 ドンッ!

「うわっ!」
 その時、後ろから思い切り何かがぶつかってきた。踏ん張りきれず、ティオは石畳にすっ転ぶ。

「おっとすまねえ小僧!」

 続いて慌てたような声が上から降ってきた。

 と思うや否や。
「じゃあな!」
 声はそのまま通り過ぎた。
「ってぇなチクショウ! って…」
 直後に違和感。何やら肩の辺りがスースーするような……
「おい! アニス!」
 呼んでみても親友の答える声はない。
「っんの野郎ぉ……!! 人の相棒盗むたぁいい度胸だ! ぜってぇブッ殺ス!!」
 周囲の注目を一身に浴びつつそう怒鳴ると、ティオは声の去った方向へと走りだした。


紗月 護 |MAILHomePage

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