「硝子の月」
DiaryINDEX|past|will
「そう古いお話ではありませんのよ。歴史で言ったらルウファさんのご出身の『魔法王国』ミラ・ルゥのほうがずっと古いですから」 「あの国は古いのだけが取り柄ですから」 「まぁ。魔法は立派な取り柄ですわ」 肩を竦めてみせるルウファに、アンジュはくすくすと笑った。 「この国――アルティアが『第一王国』と呼ばれるようになりましたのは今からおよそ三百年前、建国王アルバート一世の頃のことですわ。建国とほぼ同時期――そうですわね。『第一王国』だからこそアルティアは生まれたのだと申し上げても過言ではありませんわ」 彼女の表情には、『第一王国』に住まう者としての誇りが見えていた。 「『硝子の月』の伝説はご存知ですか?」 「ええ。一応一通りは」 ルウファが頷くと、アンジュは軽く頷き返して話を続ける。 「現在アルティア国となっている土地は、それを巡る群雄割拠の戦場だったのだそうです。そこに現れたのが建国王でした」
建国王アルバート一世は、当時国を持たない流れの剣士だった。彼の出自は謎に満ちていて、様々な逸話を残して今でも吟遊詩人に創作の泉を供給し続けている。 未熟ながらも、若く熱い理想に燃える彼は、その人物によって優秀な仲間に恵まれ、戦乱の世を生き抜いていく。 彼とその最も信頼厚き四人の仲間を合わせて、人々は『輝石の英雄』と呼んだ。彼等がそれぞれ宝石のように輝く眼差しを持っていたからであると多くの伝承歌(は語っている。
|