「硝子の月」
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四方を高い壁に囲まれた部屋だった。その全面には無数の本が詰まっている。この館には、建国祭の喧騒も届かない。 その中央、一人の女が豪奢な椅子に腰掛け、物憂げにその机上にあるモノを見つめていた。 鎌首をもたげた蛇の様な形の金属の先に、黄金の飾りで縁取られた透明な球がついている。その中は液体が詰まっているのか、ゆらゆらと独特な光の屈折を起こしながら、その中央には何か小さな透明な物体が漂っている。 不意に、その独特のしじまが破られた。 「それが話題の『硝子の月』ですか?」 通りがかった女は、山と積まれた書類の隙間から自分達の長に何枚かの紙を手渡す。 金髪の女性は、手早く目を通して複雑な模様の印を押すと、からかい半分に尋ねる。 「おや、お前もこれが欲しいのかぇ?」 紙を受け取りながら、女は笑い返す。 「とんでもありませんよ、そんな物騒なもの。でも、教えてあげないんですか?長のお気に入りのあの宰相に」 「それとこれとは別じゃ」 長も笑う。 「妾は『管理者』に過ぎぬよ。コレをどうこうするのは彼の御方の意思に沿わぬ」 「ま、私にはどっちでも構わないんですけどね。別に今年の祭りがどうなろうと」
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