「硝子の月」
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2004年06月21日(月) <災いの種> 瀬生曲

「それにしても……」
 黙って騒々しい青年の後ろ姿を見送っていたリディアが口を開く。
「お嬢様が人にお気付きにならないなど、珍しいですね」
「そうなのか?」
「お嬢様は常人よりも感覚が鋭くていらっしゃるのだ」
 グレンの問い掛けに素っ気なく応え、それとは全く違う態度で主の顔を覗き込む。
「どこか具合でもお悪いのですか? そうであれば今日の式典はお休みになるほうがよろしいのではありませんか?」
「リディアは心配性ね」
 対するアンジュはくすくすと笑う。
「私の感覚は、貴女が思う程には鋭くないのよ。ドアの向こうに人がいるかとどうか、わからないことだってあるわ」
「ですが…」
 尚も言いつのろうとする少女に、アンジュはにっこりと微笑み掛ける。
「大丈夫よ」
「……はい」
 それ以上は何を言っても聞かないとわかったのだろう。リディアは苦笑して頷いた。


紗月 護 |MAILHomePage

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