「硝子の月」
DiaryINDEXpastwill


2004年07月16日(金) <災いの種> 朔也

「……は? 何か言ったか?」
「いいや別に」
 振り返ったグレンの言葉にカサネは軽く首を振る。
 グレンはやや怪訝そうに眉根を寄せたが、すぐに考えるのを放棄してあっさりと身をひるがえした。
「ふん? ……ま、いいか。
 さて、俺は出掛ける用意でもしてくるかね」
 グレンはキィとドアを開けた。その背中が、少女達の後を追うようにドアの外に消える。
 ぱたん。
 閉まった扉。ほんの一瞬、世界からさえ切り離されたような錯覚を覚えてティオは苦笑した。
 本物の世界の外の感触を、自分は知っている。白い光をこの手で収めたあの時のように。
 あれが一体なんだったのか、その答えを未だ自分は知らない。
「……人じゃなきゃ、なんだ?」
「……ん?」
 ぽつり。やや遅れて零れた言葉にカサネが顔を上げる。
 彼が問い返したことが意外だったのだろうか。彼女にしては驚いたようなかおで、静かにこちらを見返している。
 ティオは膝に乗せたアニスの羽根を撫でた。そうしながら、ぽつりとどうでもいい口調で言葉を続けた。
「人じゃなきゃ、一体なんだ?」


紗月 護 |MAILHomePage

My追加