「硝子の月」
DiaryINDEX|past|will
「……は? 何か言ったか?」 「いいや別に」 振り返ったグレンの言葉にカサネは軽く首を振る。 グレンはやや怪訝そうに眉根を寄せたが、すぐに考えるのを放棄してあっさりと身をひるがえした。 「ふん? ……ま、いいか。 さて、俺は出掛ける用意でもしてくるかね」 グレンはキィとドアを開けた。その背中が、少女達の後を追うようにドアの外に消える。 ぱたん。 閉まった扉。ほんの一瞬、世界からさえ切り離されたような錯覚を覚えてティオは苦笑した。 本物の世界の外の感触を、自分は知っている。白い光をこの手で収めたあの時のように。 あれが一体なんだったのか、その答えを未だ自分は知らない。 「……人じゃなきゃ、なんだ?」 「……ん?」 ぽつり。やや遅れて零れた言葉にカサネが顔を上げる。 彼が問い返したことが意外だったのだろうか。彼女にしては驚いたようなかおで、静かにこちらを見返している。 ティオは膝に乗せたアニスの羽根を撫でた。そうしながら、ぽつりとどうでもいい口調で言葉を続けた。 「人じゃなきゃ、一体なんだ?」
|