「硝子の月」
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2004年07月23日(金) <災いの種> 瀬生曲

「さあ、な」
 答えたカサネの顔が、からかうような微笑に見える。何かを知っているのに隠しているのではないかと思い、この場にはいない少女を思い出す。
(あいつもこんな風に笑う)
 実際には違うのかもしれない。けれど、今のティオにはそう思えた。
「生憎と私にはわからない。しかし、そうだな」
 彼女は自分の相棒に目をやる。黒いルリハヤブサは応えるように首を伸ばす。
「こいつや、アニスならばわかるのかもしれないな。あるいは、運命を知るという少女なら」
 ならば不思議な力を持つとも言われる希少な鳥とあの少女とは、同じ位置にいるということか。
「私は気に入っているぞ」
 不意に、カサネの鳶色の瞳が笑みに細められる。
「あの子も、お前達も、あの男もな」
「何の話だ?」
 計ったかのようなタイミングで戻ってきた青年に、彼女が吹き出す。
「何だよ」
「いいや。それでは出掛けようか」
 笑いながらグレンの肩を叩いて促す。
「ったく、わけのわからん女だな」
 ぶつぶつ言いながら、青年に本気で不機嫌になった様子は無い。
「お前も行くだろ? マントはいいのか?」
 確認のようにティオに言った。
「行かない」
 問われたほうでは無愛想に答え、アニスの喉をかりかりと撫でる。
「具合でも悪いのか? 傷がまだ痛むとか…」
「違うって」
 これまでにも度々思ってきたことを、また思う。この男は案外面倒見がいい。


紗月 護 |MAILHomePage

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