「硝子の月」
DiaryINDEX|past|will
「わざ、わいの――?」 その不吉な響きに圧されるように、わずか口篭もりながらティオは呟いた。 災いの子。その言葉と目の前の勝ち気で眩しい少女がどうしても噛み合わない。 「……誰も運命にふれずに生きていくことはできない。 逆に言えば、誰でも運命にふれてそれを動かすことはできるの。たとえそれがどんな形でもね」 未だ涙に濡れた目で、ルウファはひたりとこちらを見る。 笑んでいる。水に溢れて揺らぐ赤い目は、まるで踊る炎にも似て。 「でも、ふれた水がいつでも思ったように流れるとは限らない。風にふれることはできても、それを捕まえられる人はいない。 ……それと同じことよ」 できないと言いながら、その眼差しの何と強いことだろうか。 涙を流しながら、逢えないと泣きながら。 「運命を自由に操れるもの……それは、きっとひとつしかないわね」 それが何であると。 ルウファは口にすることはなかったが、答えは言葉よりも明瞭に聞こえた気がした。
|