「硝子の月」
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2005年04月12日(火) <揺らぎ> 黒乃一三

「グレン…か。良き名だ」
 王の顔に柔和な笑みが浮かぶ。
 静かで、暖かい声だった。歳経た巨木のように泰然としながら、どこか人懐こいような。
「我が国の古き言葉で、”紅く美しき花”―――それが咲く様子から転じて、”猛き炎”を現す言葉だ。
 名に負いしとおり、胸の内にそれをくすぶらせている、か。うむ」
 細めた目の奥に、強い光が見えた。老いた肉体の中にあって、けして朽ちぬ二つの珠玉がグレンを見据えている。
「なあ。…何のことを言ってるんだ?」
 グレンは小声でカサネに尋ねた。
「つまり、お前はあの方に気に入られたということだ。良かったな」
 いつもどおりのカサネの声は、しかしどこか嬉しそうだった。


紗月 護 |MAILHomePage

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