「硝子の月」
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2005年09月05日(月) <揺らぎ> 朔也

 いいように振り回されて思わずふて気味になるグレンに、王は微笑んでつと姿勢を正し、明瞭な声音で告げた。
「これは、礼というものだよ。グレン・ダナス」
「……礼?」
 奇妙な言葉だった。礼を言われるようなことなどなにもしていない。
 訝しい顔をすると、そうではない、と王は穏やかに首を振る。
「礼儀であり、敬意でもある。
 つまりそういったものである、ということだ」
「……敬意って……」
 開いた口が塞がらない、とはこのことだ。グレンは絶句してまじまじと相手の顔を眺めてしまった。
 いくら気さくな王と言っても限度があろう。流れの旅人などにかける言葉ではないように思うが。
「なるほど、儂は王よ。それ故に払われる敬意も、振るうことのできる力もある」
 老王の言葉は重々しく、そして尚も凪いでいる。ぴんと張り詰めた力を底に秘めながら。
「だが今、儂はお主らを従えたいわけではない。利用したいわけでもない」
「……」
「……礼を尽くすべき相手を見誤るほど耄碌はしておらんつもりだよ。
 既にそうせねばならん存在だと思うがな、お主らは」


紗月 護 |MAILHomePage

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