「硝子の月」
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いいように振り回されて思わずふて気味になるグレンに、王は微笑んでつと姿勢を正し、明瞭な声音で告げた。 「これは、礼というものだよ。グレン・ダナス」 「……礼?」 奇妙な言葉だった。礼を言われるようなことなどなにもしていない。 訝しい顔をすると、そうではない、と王は穏やかに首を振る。 「礼儀であり、敬意でもある。 つまりそういったものである、ということだ」 「……敬意って……」 開いた口が塞がらない、とはこのことだ。グレンは絶句してまじまじと相手の顔を眺めてしまった。 いくら気さくな王と言っても限度があろう。流れの旅人などにかける言葉ではないように思うが。 「なるほど、儂は王よ。それ故に払われる敬意も、振るうことのできる力もある」 老王の言葉は重々しく、そして尚も凪いでいる。ぴんと張り詰めた力を底に秘めながら。 「だが今、儂はお主らを従えたいわけではない。利用したいわけでもない」 「……」 「……礼を尽くすべき相手を見誤るほど耄碌はしておらんつもりだよ。 既にそうせねばならん存在だと思うがな、お主らは」
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