2003年10月30日(木) |
仙台・激旨牛タンの真実 |
美味しい焼き鳥が食べたい、食べたい食べたいよお、とツマは言った。 その日、オットは残業を終えて帰ってきたところで、時刻はとうに“明日”になってしまっている。まあ、毎度のことではある。玄関ドアのロックだけ外しておけばいいから、先に寝ていていいよ、と残業の途中に電話をしたのだが、ツマはやはり起きて(正確には付けっ放しになったテレビの前のソファでうつらうつらしながら)待っていた。 風呂から出てくるタイミングを見計らって、ツマが夕食にこさえた麻婆豆腐を温め直している。俺はバスタオルで頭をごしごしやりながら食卓につき、ほとんど夜食と呼べそうな夕食となる。ツマはいつものように俺の正面に座り、半分寝ぼけながらその日一日あったことを俺に話す。共稼ぎなので、ツマもツマなりの仕事上の不平不満というようなものもあって、一方では家事全般もこなしている。オットは毎日のように帰りが遅い。そろそろツマの不満が露見してきてもおかしくはない。このままでは平和な家庭生活が維持できない。 「――なんだよねえ。焼き鳥食べたいなあ。美味しい焼き鳥。食べたい食べたいよお」 そんな考え事をしているうちに、ツマの話はどうやら“美味しい焼き鳥”に移行しているようだった。 「じゃあ、行くか、来週にでも」 夫婦の間でオゴりもへったくれもないと思うが、こういうときはまず間違いなくオットがツマにご馳走することになる。これが、我が家で言う『ツマ感謝デー』である。一方では夕飯にオットの好物ばかりが並ぶ『オット感謝メニュー』という時もあって、こうした夫婦間の相手方へ配慮という緊張感の上に我が家の平和な家庭生活は成り立っている。
『バードコート』という有名焼鳥屋はJR北千住駅から歩いて5分程度の商店街の中にある。どれくらい有名かというと、という話をしだすと長くなるのでここでは割愛。『ツマ感謝デー』となったその日、オットはツマと北千住駅で待ち合わせ、予約どおり19時半に店に入った(予約しないと確実ではないくらい、人気のある店なのだ)。 まずは生ビールで乾杯。ササミの刺身からスタートして、皮付正肉(塩)、レバ、手羽焼、皮、砂肝などを次々とやっつけていく。店に入ったのが遅かったので、ぺた(おしり)、ぼんじり(尾の付け根)などのレアアイテムはすでに売り切れてしまった、とのこと。そういえば前回、友人達とこの店に訪れたときも同じことを言われた。 美味しい焼き鳥を食べたいと唸り続けていたツマは、オットが案内したこの店で、激旨焼鳥を十分堪能してくれているようだった。オットはその翌日の土曜日も出勤だったのであまり深酒は出来なかったが、ツマはビールからワインへ移行。値段順で並ぶメニューのかなり下の方を指差すので、ここはオットの強権を発動して、むりやりその指をメニューの上のほうへ移動させた(結果的にはメニューの中ほどのところに指先は移動して行ってしまったのだが)。 シメは親子丼を夫婦で分け合った。この店に来て、親子丼を食べなければその価値は半減する、と言いたいくらいここの親子丼は旨い。 「美味しかったねえ。オットの言うとおりだったねえ」 店を後にすると、ほろ酔いのツマは満足げに言った。夜風はすっかり冷たくなっていた。 「そりはよかった」 オットもとりあえずは自信たっぷりに案内した店を気に入ってもらえて、これはこれで満足。オットとツマはまだ帰宅の人々が行き交う北千住駅へと向かった。ツマが上機嫌で言った。 「ついでにちょっと買い物でもしていこうかなあ」 「いいよ、付き合うよ」 「ブーツが欲しいのよねえ」 自分で買えよ……という強い意志を持った視線をツマに送ると、ツマはいち早く言葉を返した。 「ええ、いいじゃない。だって『ツマ感謝ウィーク』でしょう」 「勝手に『ウィーク』にするなっ」
※バードコート 住所:足立区千住3ー68(JR・地下鉄北千住駅西口ヨリ徒歩3分) 電話:03-3881-8818 営業時間:17:30-22:30 定休日:月、2・4日曜
【お詫び】本文の内容とタイトルに大きな食い違いがあることをお詫びいたします。ちょっと、意図的なんですけど。
|