でまあ、いまワタクシがどこでコレを打ち込んでいるかというと、高知県は高知市。日本海側のT市での二日間の仕事を終え、日本海側から太平洋側へ、待ち合わせ時間も入れると5時間かけて高知にへたりこんだ。ちょいちょいと『のづ写日記』のほうを更新しているので、この出張の激務振りが皆さんにも伝わっていることと思います(ほんとかよ)。
この出張に出発する先週の木曜日、俺は終業時間が近づくにつれて忙しくなっていった。なんでいつもこうなんだろう。例によって次々と舞い込む予定外の仕事にばたばたを追い回され、一日かけてぬかりなくやろうと思っていた出張準備の仕事に取り掛かれたのが午後5時過ぎ。やばい、やばいと独りつぶやきながら涙目でPCにむかって資料を作り、6時過ぎには出張の大荷物を持って会社を逃げるように後にした。 この日、俺は“彼女”のライブに行くことにしていたのだ。 松山でのクリスマスに初めて彼女のライブに訪れ、東京では今回で2度目。数ヶ月でこれだけライブに足を運んでいるのだから、自分でもこの入れ込みようには驚いている。会社支給の携帯電話の着メロも彼女のヒット曲だ、というのは、まあご愛嬌。 青山の「草月ホール」という小さなコンサートホール。ここは以前、アカペラグループ「トライ・トーン」のライブをツマと観に来たところだ。ビジネスバッグに出張のキャリーケースを引きずって、なんとか開演時間ギリギリに会場へ到着することが出来た。 この日は今年の初めからスタートした彼女のツアーの最終日だった。ライブは松山で見たときと同じ、ギター1本だけをバックにしっとりと唄うアコースティックスタイル。愛する彼女の歌声に、なにより生の弦の音を愛する俺にはたまらない構成だ。やはり松山のときと同じように、昨年リリースされたアルバムの1曲目でもある『ネガ』からライブはスタート。軽快なギターのストロークとマラカスのリズムが静かに響き始めた。 演奏される曲はだいたい、これまでに訪れたライブで聴いたことのある曲が中心だったが、ライブの終盤で突然彼女はマイクを傍らのテーブルの上に置き、会場に向かってマイクを通さない地声で語りかけた。 「聞こえる?聞こえます?」 ギター担当も舞台の客席側に腰掛けた。乾いたハーモニクスが会場に響く。 どうやら、本当の“生”で演奏するようだ。マイクを通さない声。マイクを通さない弦。
俺が愛した彼女の歌声は、本物だった。
小さな舞台をゆっくりと歩みながら、彼女は嬉しそうに歌っていた。会場の音響設備を通さずとも、静かに心に沁みてくる彼女の歌声は、俺の胸をちょっとだけ熱くした。全くの思い違いと知りながら、自分のために届けられる歌声と錯覚すらしそうだ。 ツアーの最終日のお決まりなのか、アンコールは2度。ちいさな会場を思わせない観客の熱い拍手の中で、彼女は深々とお辞儀をすると、目頭を押さえた。そして、会場に背を向け、傍らのテーブルの上の赤いタオルで再び眼のあたりを押さえつけた。 俺の彼女へのコイゴコロは、もうしばらく、続きそうな気配である。
|