雑感
DiaryINDEX|past|will
小学5年の頃、文庫本は大人の読むものだと思っていた。 そんなとき、弟から星新一の「ボッコちゃん」を教えてもらった。 中学生になって、共通の本棚に星新一の本がずらっと並ぶことになった。
今手元にあるのは、「妄想銀行」の1冊だけ。昭和42年の刊行。 21世紀の今読み返しても、氏のショートショートの構成の妙には 脱帽する。内容がちっとも古くない。氏の未来を読む眼力の鋭さは、 文明が進歩するにつれて証明されていくだろう。
「住宅問題」を読む。家賃無料のアパートに住む、エヌ氏は家に帰ると 何だか疲れる。ドアを開けたとたん、部屋がお喋りを始めるのだ。 「お帰りなさいませ。プーポ印のワインはお買いになったでしょうか。」 壁を見ると、コマーシャルフィルムが流れる。部屋にいる限りコマーシャル が途切れることがない。ある日、郊外に破格の一軒家を購入して、現地 を訪れると、そこには品種改良された小鳥が企業の名前をさえずったり、 花壇の花は企業のロゴマークの花びらをつけている・・・
「陰謀団ミダス」には、消費をあおるためなら、戦争以外何をしても 許されると大義を掲げて、政府や企業やマスコミがぐるになって、 予定された犯罪をしかける。小さな事件を煽って、消費者の不安心理を 煽り、消費を拡大させていくプロジェクトは、今の時代への痛烈な 批判がこめられている。
当時ですでに800編近いショートショートを書いたのに圧倒されるが、 内容が、いま読んでも違和感を感じないのは、感じさせないように する氏の技法によるものだろう。人物や背景はできるだけ現実味を 与えないようにする。ゆえに、いつの時代にも、幅広い読者を獲得でき るのだと思う。氏の作品が翻訳されていないのは残念。
|