雑感
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塩野七生の「サイレント・マイノリティ」に「ある脱獄記」という 文章がある。17世紀前のローマで、ある知識人が見に覚えのない罪で 投獄された。ピニャータという名前の、この知識人はいつか身の潔白が 証明されて出獄できる希望をもちながら、平行して脱獄の準備を始める。 彼は独房の中で足腰の鍛錬をし、机のうえに漆喰のかけらでチェンバロの 鍵盤を描き、知っている限りの曲を奏でて、頭の衰えを防いだ。そのうち こっそりと小刀を手に入れ、独房の壁を少しづつ削り取っていった。 作業開始から一年後、彼は脱獄に成功した。
アレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」は、主人公の エドモン・ダンテスが謀られて監獄に入れられ、14年もの歳月を かけて脱獄に成功する19世紀の長編小説である。(文庫で7巻くらいの 長さ。でも、いっきに読める)ダンテスも、囚人仲間の老人から学問 の薫陶を受け、知性をみがき、体力をつけ脱獄の機会をねらっていた。 ピニャータは希望を、生きる糧としたのに対し、ダンテスは強烈な 復讐心で独房生活を耐えた。
スティーブン・キング原作の映画「シャーシェンクの空」にも無実の銀行家 が投獄され、自由への強烈な欲求を糧として、着々と脱獄計画を立てて いく。少しづつ壁にトンネルを掘る一方で、刑務所長の脱税に力を貸し 信用を得ていく。彼が脱獄に成功したのは、20年ほど経った頃だった。
脱獄に必要なものは、一に希望(自由への強烈な欲求や復讐心)、二に 体力、三に、知力、四に壁を削るグッズといったところだろうか。 それにつけても、いつか外にでてやるぞ!といった強烈な希望がとにかく 大事なのだろう。待っているうちに力尽きた人達はたくさんいるのだから。
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