雑感
DiaryINDEX|past|will
2001年12月01日(土) |
kafkaesqueーカフカの小説のように不条理な |
グラーベンホテルはシュテファンス寺院からグラーベン方面へ 3つ目の通りを左手に折れたところ、ドロテーアガッセにある。 向かい側には、楽譜の老舗ドプリンガーの古ぼけた店がある。
グラーベンホテルはこじんまりとして、ウィーンに古い建物は わんさとあるのに、ひときわ鬱蒼としている。建物の古さだけ でなく、どこか歴史の澱(おり)のようなもので固められているかの ようだ。村上春樹の「羊をめぐる冒険」にでてくる「いるかホテル」 を想像してみればいいかもしれない。
ホテルの入り口横には、小さなプレートにフランツ・カフカが 定宿にしたと書かれている。プラハで生まれ育ったカフカ はしばしばウィーンに来ては、カフェツェントラルを訪ね、グラーベン ホテルで寝泊まりしたのだった。カフカの肖像画を見るとすぐ気がつく と思うが、この作家は身体中に鬱がはびっこっているような風貌をして いる。「審判」「城」「変身」は、心身健全な人間が書けるような 物語ではない。物語には目に見えない、無慈悲な国家権力によって、 虫けらのように始末される主人公が登場する。不条理が背中に貼りついて いるような感じ。
カフカエスクは「カフカの小説のように不条理な」という意味の英語。 先日の新聞記事で、ウクライナの婦人が、団体旅行でウィーンを 通過中に、貴重品とパスポートを盗まれた。団体は先に帰国し、婦人は ウィーンの親戚に居候している間に、路上で警察の職務質問を受け、 身分証明ができないために留置場に入れられた。ウクライナの領事部は、 本人が留置場にいる限り何もできないといい、警察は身分証明ができない と釈放できない云々。この婦人の現状を表現するのにカフカエスクという ことばが使われていた。 どこにも到達できずにぐるぐる回るリーゼンラート(観覧車)のよう・・ まさに不条理そのもの。
|