- different corner -
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前の彼と別れる半年前。
隣で安らかな息を立てて眠る彼の寝顔を見て、 この人を殺して自分も死ねば 幸せになれるのかもしれないと言う考えが頭をよぎった。
台所への入り口はあいているから、 扉のあけしめで起きられることはない。 今なら。
でも、できなかった。 死が怖かったのではなく、死なないかもしれないことが怖かった。 今以上に不幸を積み重ねてどうするのかと思えた。
目覚めて一人になり、 彼を殺さなければ得られない幸せとは なんなのだろうと考えた。 黙って何も言わずに我慢していれば何もかも手にはいるはずなのに。 何時間か考えて、やっと一つだけ手に入らないものに気づいた。
現状からの解放。
私はそれほどまでに、この人から逃れたかったのだ。
なぜいつもこうなってしまうのだろう。 私は相手に自分を認めてほしいから 相手の悪い部分も反対意見も含めてすべてを認めるのに、 その見返りはいつも相手からの拘束。 相手の意見を全て受け入れるのは、 従順なしもべになったのではなく、 同じくらい自分を認めてほしいからだ。
その結果、私はだんだん相手からの解放を夢見るようになる。 そして、耐え切れずにもがきはじめた私は 相手を傷つけては不思議そうな顔をされ、 悪いことをしないようにもっときつくしばられてしまうのだ。
でも、解放されたところで幸せなのは一瞬だけ。 くさりが一個はずれただけで、今度は 別な鎖があったことを思い出して落胆する。 事実、その彼と別れてから「幸せ」だと 思えたのはほんの数日だけだった。
現状をかえようがないのなら、小さな幸せだけをみて暮らそうと 思うようになったのはそれからだいぶたってからだ。 陽射しやぬくもり、甘い物やキレイなもの。そのときだけのやさしさ。 その日に賞味期限が切れる、その日だけの幸せ。
自分が望んだ幸せのむこうには幸せはない。 では、鎖を全て外せば本当に幸せになれるのだろうか?
……わからない。
足かせを外そうとすれば外せることはわかっているけれど、 外しているところをみられたらもっと頑丈なものをつけられて 今度こそ本当に逃げられないことを思うと、 逃げられるかもしれないと夢をみられる今のほうがましだ。
ひょっとしたら、鎖の重さになれた体は 鎖なしではもう生きられないのかもしれない。 バランスを崩して、歩くことすらままならないのではないだろうか。 鎖を全て外したことがないから、全て予想でしかない。
一つだけわかっているのは、 これが自分の本当の人生なのだということを そろそろ受け入れないといけないということだけだ。 白馬の王子様に迎えにきてもらうには、 抱えているものが多すぎて重量オーバーだし、 自由を求めて走り回るドラマの主人公になるには、 そろそろ年を取りすぎた。
でもときどき、ほんの少しの間だけ夢をみたくなることがある。 この人生から本当は逃げられるかもしれないという夢を。 だけどそろそろ目覚める時間がきたようだ。 白馬の王子様とももうお別れしなくては。
永遠に。
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