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2003年04月01日(火) |
嫌いじゃない。でも…… |
人同志の関係は時がたつにつれ少しずつかわっていくものだけど、 相手が徐々に、あるいはある時期を境に 自分が好きだった時のその人ではなくなってしまった場合、 こちらはどうすればいいのだろうか。
嫌いになったらとるべき道はほぼ決まっている。 でも、嫌いというほどではないけど 一緒にはあまりいたくない、という場合は どうしたらいいのだろう。
Tくんは数年前までひどいアルコール依存症で、 周りにも迷惑をかけていた。 みんなはアルコールが入っていないときの彼が好きだったから 何度も病院へいくようにすすめたが、 日がたつにつれ、アルコールが入っているときの 彼としか会えなくなっていった。 家族もそんな彼のことをとても心配していたけれど、 彼は自分の抱えるものを他の人に打ち明けようとはせず、 ただ深くアルコールにおぼれていくだけだった。
しかし、ある時「これではだめだ」と思ったらしく、 自ら病院に通いはじめた。 彼は病院に通うことが多くなり、みんなと会う機会も だんだん減っていった。
治療をはじめて二年たった頃だっただろうか。 他の人たちと一緒に、私は彼と久しぶりに会うことになった。 アルコールが入っていない時の彼と会うのは 久しぶりだったから、どんなふうになったのかと みんなで楽しみにしていた。
久しぶりに会った彼は、光輝くような笑顔で 私たちを迎えてくれた。 最初はみんな喜んだものの、だんだんみんなは 彼が笑顔とは対照的に次第に無口になっていった。
彼が笑顔なのは、アルコールがぬけて もとの彼になったからだけではなく、 治療中に入信した宗教のおかげだった。 彼は何度も「生まれ変わった」「救われた」を連発し、 私たちも入信するようすすめてきた。
その日の帰り、私たちは お互いを何か言いたげに見つめては 言葉を飲み込むということを繰り返し、 やがて一人が口をひらいた。
「……ねえ、やばいんじゃない。T。」
「宗教はいってるし」
「久しぶりに会うのに勧誘かよ、おいーって感じ」
彼は自分で幸せをつかんだのだから、 私たちはそれを受け入れて喜んであげるべき だったのかもしれない。
でも、テレビ等でみる宗教の独特な「胡散臭さ」を 頭に刷り込まれている私たちは、 今の彼をとてもうけいれられなかった。 彼は今の自分でいいと思っていたのかもしれないし 以前よりもいきいきしているけれど、 私たちが会いたかったのはアルコールにおぼれる前の、 物静かでちょっと頼りなさげな彼だった。 とても、とても会いたかったのに、 そこにはもういなかった。
そして、もう一つ私たちが彼について 感じている不満があった。 彼は、私たちがどんなに力になりたいと思っても 近寄ろうとしなかったのに、 そんな彼が私たちが誰も知らない他人に救いをもとめ、 いともたやすく「救われて」しまったことが少しくやしかった。
嫌いじゃない。
でもできるなら、
あまり会いたくない。
私たちは次第に彼と連絡をとらなくなっていった。
理解しようとはしたんだよ。 結局見捨てたんだから言うだけ無駄なのかもしれないけど、 私たちはアルコールがはいっていてもいなくても、 あなたが嫌いなわけじゃなかったのに、 どうして私たちや家族じゃだめだったの? あなたの見つけた幸せは、私たちには どうしても受け入れることができなかった。 助けを求められなかった理由はなんとなくわかるけど、 残念なことにはかわりない。
彼は、何もしてあげられないまま 少しずつ離れていった私たちのことを、 許してくれただろうか。 それとも、少し付き合いが長かっただけの 助けを求める気すらおきなかった人達のことなんか、 もう忘れてしまっただろうか。
本当の友達なら、宗教に入ったくらいで 友達をやめるなんてことはしないのかもしれない。 そんな私たちのうすっぺらさを、 彼はずっと前に見抜いていたのかもしれない。
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