永久という名の瞬間
2004年02月17日(火) 勝者である証明

「ほっそりしているね」って、一度は言われてみたかった。

 私は中学の頃、恐ろしく太っていて、身長は変わらないのに今よりも10kgも体重が多かった。
 デブといわれたし、自分でデブだとわかっていた。
 今は標準に落としたけれど、心の底では、「やせている」くらいになりたい。

「ヒトは見かけじゃない」という奇麗事に騙されて、中学時代は与えられたものをただ、食べていた。栄養取らなくちゃいけないから、と、馬鹿みたいに量を与えまくる母に従った。太っても、拒否できなかった。
「食べる事が何よりの幸せ」と考える、戦時生まれの老人を喜ばせるために、無理に喉に食べ物を突っ込んだ。気持ちが悪くなっても「おいしい」と言うのに慣れていた。「おいしい」なんて、どんな味なのか、全然わかりもしないくせに。
「食べ物を粗末にしちゃいけない」と、農家生まれの父は、米粒ひとつでも残したら怒った。
 母は私の啓蒙のために、難民のVTRを見せて、あんたは恵まれているんだと脅した。

 私は食事が嫌いになった。

 嫌いな食事を拒否しないで受け入れる、私は謎の存在。
 それは私は、私である以前に、生物だから。
 だけど、私は食べ物を口にする度、絶望のような、灰色の気持ちになる。

 たとえどんなモノだって、嫌いなものを口にしたくない。
 やせることは、私が自分の理性が勝った証。本能を乗り越えられた、勝利の証。
 だから私は、体重が1kg減っただけで、涙が出るほど嬉しい。

 私はいつだって勝者である事を、カタチとして証明したい。

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photo by 東雲