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| 2001年12月15日(土) ■ |
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| “素”食な文章 |
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昔、勤めていた呉服問屋は、年に数回、社内でお得意先を呼んで、展示会を催した。とにかく凝っていて、商品のディスプレーや食事などの打ち合わせで、内勤の女性も毎日遅くまで残業していた。
展示会の食事は、接待みたいなもの。基本的に和風の懐石料理などの豪華なものが用意される。
21世紀の始め、今年の1月の展示会の食事は今までとは違った。従来の豪華懐石料理をやめて、よく言えばシンプル、悪く言えば質素な食事に切り替えたのだ。
メニューは、白いごはんにみそ汁、漬け物、鮭の焼いたもの。それだけだ。
しかし、素材にはこだわった。高いものというより、より自然志向で作られたものを使った。ご飯は蒔で炊き、水もミネラルウォーターを使った。魚は炭火で焼き、漬け物は担当の社員がつけていたようだ。まさに、手作り、素材で勝負するおもてなし。テーマは、“素”食だった。物があふれている現在だからこそ、素材を大切にした商品を、というのが新作のコンセプトだったのだ。
他の問屋でイヤほど懐石料理を食べているお得意先の方に、この“素”食がウケた。「これなら、毎日食べられる」とまでおっしゃった方もいた。買い付けに来られる方の多くは、こういう“素”食で幼い頃を過ごしているはずだ。
今日、縁あって、「野球小僧」さんの忘年会にお邪魔することが出来た。普段からメールのやりとりをしている日記作家さんや編集部のみなさん、そして考えられないほど豪華な関係者にお目にかかれることができた。無職の身で、万単位の出費は痛かったが、お金では得られない経験をさせていただいた。
今日、お会いしたかった方の一人にツルシカズヒコさんがいる。(無事、お話できました!)「野球小僧」さんでも原稿を書かれているフリーの編集者の方だ(私はライターだと思っている)。私は、ツルシさんの書く文章がすごく好きで、少なからず影響を受けている。
「野球小僧」という雑誌を知る以前に、書店で「野球旅」という本を見つけた。その作者に一人がツルシさんだ。
「野球旅」は、全国の野球場をランダムに巡った野球観戦記と旅行記がミックスされたものだった。とても楽しそうだった。今、私が遠方の高校のグランドへ足を運ぶようになったのも、この本との出会いがあったからだ。
その中に、ツルシさんのコラムがあった。 ご自分の歴史と見てきた野球がバランス良く書いてある。人の数だけ野球があるんだなと思った。
また、ツルシさんの文章には、感情を表す言葉があまり出てこない。でも、文章の端々で、そのときの心境や感情が見えてくる。「かなしい」「つらい」「うれしい」「たのしい」…。人の気持ちは複雑で、きっとそれだけでは表しきれない。
あの文章力は、一体どこからくるんだろう。ゆっくりお話できる機会があったら是非訊いてみたいが、困った顔をされるのが目に見えている。
ツルシさんの文章を料理に例えると、前述した“素”食だ。
私が好む文章の多くは、難しい言葉を使っていない。ツルシさんのもそうだ。簡単な言葉で人の心に伝わる文章を書くのはすごく難しいことだと思う。
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