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2004年01月14日(水)
03年私の映画ベスト26(長文です。覚悟して読んでください。)

例年の映画評ですが、今年は私の諸事情から実に簡単に済ませたいと思います。どこが簡単かと言うと、テーマを決めずにベスト作品(私内の基準で80点以上。今回は26作品。)を順番に紹介するというものです。(案外そういう紹介のほうが分かりやすいといわれたりして)今回一年に観た作品は103作でした。

もちろんこの26作は私の好みが十二分に入っています。よって世評高い「シカゴ」「めぐり合う時間たち」「至福のとき」「アカルイミライ」「ボーリングフォーコロンバイン」「座頭市」「過去のない男」「マトリックス」「踊る大捜査線」などは選外になっています。いつも私が評価するチャン・イーモウ監督に至っては、「英雄HERO」をワーストにしたいと思います。映像は確かに素晴らしい。けれども志(こころざし)が悪い。期待していただけに裏切られたと思ったときのショックは大きかった。

ではベストの低いほうから紹介します。
ベスト26。「ドッペルゲンガー」今や世界的に有名になった「CURE」の黒沢清監督作品。自分の分身が突如現れる。ホラーでもなく、喜劇でもなく、シリアスでもない。不思議な映画である。しかし監督の初期作品比べれば、難解な映画ではない。分かりやすいほどだ。ただ、私は好きになれない。作品が悪いからではなく、登場人物たちを好きになれないからである。監督はどうもそれを狙っているとしか思えない。自分の中の嫌いな部分は自分自身も好きになれないように。
ベスト25。「T.R.Y.」日本映画だけど、内容的には日韓中合作といっていいだろう。新しい文化交流に乾杯。
ベスト24。「ロボコン」去年私がベスト2に推した「まぶだち」の監督の作品。最初津山高専等の実物名が出てきて、実在高校生がぞろぞろ出てきて、主役級の役者さえも学芸会並みの演技をするので、これりゃ外したかな、と思ったのだけど、全国大会になって次々と試合をこなしていくうちに、意外性とドラマと感動がやってきた。何がいいといって「ロボットコンテスト」という素材がいい。あと編集も良かった。要らないところをばっさりと切っていた。「ウオーターボーイズ」が好きな人にはお勧め。
ベスト23。「ロード・オブ・ザ・リング・二つの塔」作品の評価は三部作すべてが終わってからでないと付けようが無いと言うのが正直なところだ。終わった直後から「一分一秒でも第3部が早く見たい」となる。そう思わせるだけでも高得点ではあるのだが…。9ヶ月かけて「指輪物語」全9巻を読んだ。「戦争と平和」について考えさせる良書です。こちらもお勧め。
ベスト22。「トォーク・トゥ・ハー」ほとんど植物人間と化した女性を看護する男の物語。こういう男と女の関係もありだ、とどれくらいの女と男が思うのだろう。ありふれていると見るのか、特殊な関係と見るのか。純粋な愛と見るのか、汚らしいと見るのか。物語とは無関係に最初と最後に出てくるダンスパフォーマンスが象徴的。ダンスの内容は「男は女が悲しみで崩れるとき前の障害物をとり除いてあげられるだろうか。男は女が愛のうたを歌うときその体を支えてあげられるだろうか。」
ベスト21。「ターミネーター3」。シュワちゃんがどんな政治信条を持っていようと、楽しめる映画は楽しめる。要らない能書きは垂れずに、全編ずっとアクションの連続。トレーナーのカーチェイスはこれぞ、映画という感じ。最後の意外な終わり方も私の好みです。
ベスト20。「さらなら、クロ」高校生と野良犬との交流。あのつぶらな瞳で見つめられたら、犬嫌いの私でも(本当ですよ)誰でもクロを好きになるだろうと思った。妻夫木聡、伊藤歩、新井浩文、金井勇太、三輪明日美、近藤公園、次代を担う若手が大勢出ていて、手堅い演技をしているのもうれしい。こういうきっちりした映画に残してもらえるなんて、クロはやはり「世界一幸せな犬」なのだろう。
ベスト19。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」天才詐欺師をディカプリオが演じる。タイトルバックが良い。主題曲が作品を引っ張って行く近来稀に見る作品。スピルバーグ監督は結局エンターテイメントに徹すればよいのだ。最近不作の彼の作品の中では、肩の力を抜いたこの作品が出色の出来になった。
ベスト18。「マッチスティックメン」「無骨な男(ニコラスケイジ)と少女(アリソンマーロン)」という設定は「レオン」以来、私のお気に入り。父親と娘はどの国でもいつの時代でも騙しあい。その関係を見事に写しとって今年最高の詐欺師映画になった。
べすと17。「フォーン・ブース」コリン・ファレルが実に魅力的だ。放漫だが繊細、賢いが臆病。そしていざとなった時には…。限られた街中での撮影だが、NYの雰囲気をよく伝えている。パニック脱出サスペンスとしては記憶に残すべき作品でしょう。
ベスト16。「WATARIDORI」舞の途中でズッコケル鶴、重戦車の様に飛ぶペリカン、親の目の前で子供が食われるペンギン。風にのって飛ぶ、羽ばたいて飛ぶ、鳥の気持ちになって空が飛べる。見事なドキュメンタリー。
ベスト15。「猟奇的な彼女」ラブコメディ。韓国映画が元気が良い。次から次へと新人監督、新人俳優が現れる。一昨年夏と去年の冬、釜山で映画を観た経験から断定して言うと、一途に若者がこの盛り上がりを支えている。通常の夜にどうして若者があんなに映画館に集うのか。あの熱気はすごかった。それを背景に製作会社も監督も思いきった冒険ができるのだろう。この作品もその流れに乗って出来上がった作品。スピーディーな演出。延長戦に入っての脚本の工夫。ちゃんとしたメッセージ。アイドル性。
ベスト14。「おばあちゃんの家」韓国のわがまま都会っ子の孫と田舎のおばあちゃんとの交流。定番お涙頂戴映画だと分かっていたから、一応醒めた目で見ていたはずであった。こんなにバリアを張っていたのに泣かされてしまった。登場人物たちの自然な演技。いつか見たような風景。あとでパンフを読むとおばあちゃんも、ほとんどの出演者も、あの村に住む素人だと聞いてびっくり。
ベスト13。「黄泉がえり」今年の日本映画の思いもかけない収穫の一つだろう。エンドクレジットが終わり、場内が明るくなるまで、観客が誰一人として動かなかった。シネコンの客としては、珍しい光景だ。いち早く降りて、観客の顔を観察してみた。怒っているのでも楽しそうでもない、穏やかな顔をしていた。『あなたにとって、黄泉がえって欲しい人は誰ですか』そんな宣伝のキャッチコピーを反芻しているのだろうと思えた。
最愛の人が突然元気なまま黄泉がえってくる。それも数千人規模で。迎える側はその人の黄泉がえりを真に願う人であり、よみがえった人は正真正銘「昔のまま」だ。ホラーとか、SFとかヘンな理屈をつけないのがよかった。単なる草薙・竹内の恋愛ドラマにしてしまわなかったのもよかった。なかなか絶妙なキャストが揃っていて、通好み。(特に忍足亜希子、市原隼人、北林谷栄は嬉しかった)
ベスト12。「ホテルハイビスカス」「ナビィの恋」の中江祐司監督作品。沖縄大好きの私にはなんとも懐かしい世界だった。特別でない普段着の沖縄満載だった。基地が在って、美恵子たちはその中に紛れ込む方法をちゃんと知っている。インターナショナルで情に厚い家族たち。そしてカラットした性格。三線の名手はどこかしこにいて、沖縄音楽はいつも身近だ。なんでもないエピソードの積み重ねだけど、最後に美恵子が父親にしかられた時の言葉「暴力はいけないことだ。それが大きくなると戦争になるんだぞ」(正確ではありません)その後の展開が私はとても好きだ。
ベスト11。「ラストサムライ」驚いた。ハリウッドが本気で日本に迫るとここまで真に迫った「日本」を描けるものなのか。ここで言う「日本」とは、貧困武士の共同体としての生活の在り様であり、彼らの意識である。よって農民は描かれてはいない。また、天皇が重要な役として出てくるが、このエピソードは一種のファンタジーとして理解したほうがいいだろう。
ベスト10。「8Mile」私はラップは全然聞かないし、エミネムってだーれ、状態だったのだけど、これを観て「ラップもなかなかいいジャン」状態まで変わってしまった。過去に置き去りされた町、デトロイトの町をバスから眺めながら、一生懸命語彙を増やしていつか成りあがろうとしている青年エミネムが印象的。キム・ベイシンガーが、男にだらしない、可愛い女を演じて、魅力爆発。その他、脇役がしっかり演技しているので、エミネムが黙りこくって、眼をぎょろぎょろしているだけで、なんかこいつやりそうだと存在感持たせて、なかなか良かった。もちろん彼のラップはさすが。今年度ピカ一の青春映画。
ベスト9。「インファナル・アフェア」アンドリュー・ラウ、アラン・マック監督。久しぶりの見応えのある犯罪映画(フィルム・ノワール)。あまりにも男臭い作品。特殊なドラマがやがて仏教の哲学的な命題に還っていくところなんか、一種の抒情詩的雰囲気さえ漂わせている。
ベスト8。「夜を賭けて」本格的な日韓合作映画。最後のエンドロールで日韓入り乱れての名前の列挙が素晴らしい。昭和33年、大阪城のすぐ近くに住んでいた在日朝鮮人たちの追いだされるまでの物語なので、話す言葉はほとんど日本語なのだけど、彼らの気性や生活習慣はやはり日本人ではない。そういう事をキチンと描きながらも、彼らはやはり私たちと同じ「人間」なのだ、という事も(当然ながら)描いている。そして圧倒的なパワーが二時間ちょっと疾走する。この日韓合作の流れもっと続いて欲しい。結局これが今年度邦画ベストワン。今年の日本映画は少しさびしい。
ベスト7。「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」ジョニー・デップがはまり役。キャラクターで見せる映画です。今年度エンターテイメントではピカ一。
ベスト6。「人生は、時々晴れ」マイク・リー監督。イギリスの労働者階級の家族を暗くなる1歩手前で淡々と描く。運命に疲れているタクシー運転手の夫。生活に疲れている妻。将来に疲れている息子や娘たち。この映画は普通を描いた作品だ。美男美女はとうとう一人も登場してこない。最後疲れた心に少しだけ晴れ間がのぞきこむ。こういう映画も時には見てもいいかもしれない。映画が終ったあと、回りの人々を見て、少しだけ優しくなれるから。
ベスト5。「セプテンバー11」世界各地の11人の監督たちに11分だけの9.11に触発された作品をつくらせる。どの監督も国を背負って作品を作ったわけではない。しかし、2002年という時期の「世界」の雰囲気をここまで表わした映画はもう作られることはないだろう。そういう意味では、「歴史的」な映画だ。9.11は悲劇だということではみんな一致している。平和を願うということではおそらくみんな一致している。けれどもこれだけ多様な表現があるのだ。
フランスのクロード・ルルーュは恋愛映画を作り、アメリカのショー・ペンは老夫婦の別れを崩れゆくビルを背景に描いてみる。イランで、エジプトで、ボスニア・ヘルツェゴヴィナで、イスラエルで、インドで、アフリカで、それぞれの監督たちは自国の国民の声を聞きながらもこの事件の衝撃と矛盾をどのように描くかもがいている。最も批判的に描いたのは、皮肉にもイラク戦争で米国とともに戦うことになった英国の作家ケン・ローチであった。彼が描いたのは1973年の9月11日。アメリカが干渉したチリの軍事クーデター。彼の面目躍如たる11分だった。わが日本は今村昌平監督だ。しかし、その出来は11人中最低といってもいい。これは監督の限界なのか、日本の限界なのか。世界には様々な人種と様々な国の景色があり、そして表現がある。この映画の存在自体が最も雄弁に「平和」を訴えている。
ベスト4。「ウエストサイド物語」ニュープリント。デジタルリマスターバージョン。冒頭の群舞シーンからずっとかっこよいダンスが続く。歌が無いのに、ダンスだけでジェット団とシャーク団の対立、幼さ、貧しさ等のドラマの背景が良く分かる。当時のニューヨークが見事に描かれている。シネマスコープの画面の中を、右から左、奥から目の前まで、縦横無尽に踊り、走る、まるで画面からはみ出してくるかのような迫力。テレビでは絶対に味わえません。そして「きめ」のポーズ。かっこいー!
「一目ボレ」という恋の純粋さを「トゥナイト」等の有名ナンバーが切なく描く。今から40年前に、「自分のテリトリーを守るために武器(ナイフ・銃)を持つことの愚かさ」を見事に描いている。恥ずかしながら、この作品初見でした。ずっと観たつもりでいたのです。この40年間、映画界は一体何をしていいたのかと思われるくらい新鮮なシーンの連続。間違いなくミュージカルの最高峰。「シカゴ」なんて目じゃない。
ベスト3。「この素晴らしき世界」 チェコという国は、第2次大戦後50年たって、なんとこんな素晴らしい作品を作るところまで来ていた。普通の夫婦に突然飛びこんできたユダヤ人を匿うことで起きる様々なドラマをペーソス豊かに描く。
この映画の原題は『我々は助け合わなければならない』という意味だそうです。助け合う人たちが『アンネの日記』のように匿う人と匿われる人だけではない所に、この作品の奥深さがある。となりの隣人がナチスの協力員であった事も描く。けれども彼も「助け合う」のである。日本のように「水に流す」のではない。笑いの底にチャンと冷たい眼差しがある。罪を知った上で『許す』、そんなラスト。
ベスト2。「歓楽通り」「橋の上の娘」のパトリス・ルコント監督作品。誰も見向きもしていない作品ではあるが、私には忘れられない1作となった。たくさん見ていると、年間一作か二作はそういう作品が在るものだ。去年は「まぶだち」だろうか。
幼い頃から娼館の世話係をしていたプチ・ルイは決して自分はもてないと思いこんでいる。愛する女性が自分を恋しない運命なら、「運命の女の人と出逢ってその人を一生賭けて幸せにする。」そういう誓いを立てる。彼女に恋人を引き合せ、彼女を幸せにする、それはなんと幸せなことだろう。最初は良かった。彼女も自分のすることを信頼しきってくれる。ただ「良いことは長く続かない…」
最後のプチ・ルイが幸せだったのかどうか。フランス映画らしく余韻深い恋愛映画であった。
ベスト1。「戦場のピアニスト」ロマン・ポランスキー監督。一人のユダヤ人が遭遇した「戦争」。戦争とはなにかを今までにない視点で描き、そのリアルさ、その映像、音楽、そのインパクトにおいて結局3月に観たこの作品が今年度のベストワンになった。シュピルマンは最初から最後まで穏やかで哀しそうな眼をしている。ワルシャワの市民やユダヤ人たちが非応無く戦争に巻き込まれ、(戦争初期は普通の生活をしていた。その辺りの描写も新鮮だった)ユダヤ人せんめつ作戦にはまっていくのを一人の無力な芸術家として、ずっと眺めている。(戦争全体を描くのではなく個人の視線に限定して描くというのも新鮮)シュピルマンが生き残ったのは偶然に過ぎない。その背後に、愛する家族、したたかに生きようとした男、勇敢に戦った男たちのプッツリと(まるで事故にあったかのような)突然の無数の死があった。(適当に10人選ばれてはいつくばって一人づつ撃ち殺される場面があった。最後の一人が弾が切れて助かったかと思うと弾槽を入れ替えて撃ち殺す。怖かった。ドイツ兵に「どこに行くのですか?」と行き先を聞いただけで、ズドン!と撃ち殺された女性だとか、即物的な描き方が多かった。しかもこれが戦争の事実なんだよね。)個人の力はあまりにも戦争という運命に対しあまりにも無力だ。後半はそのことをこれでもかと描き尽くす。そしてもう一つ我々に見せつけるのは、その無力な個人が超絶的な技巧で美しい旋律を奏でること。結局あの戦争はこの芸術を滅ぼす事は出来なかったのである。戦争と個人の関係。個人と芸術の関係。芸術と戦争の関係。3月は世界中でイラク戦争に反対する同時多発的反戦デモが、ベトナム戦争時以上の人を集めた。この映画がその事に一役買ったのかどうかは分からない。けれどもそういう反戦デモがあった事、こういう映画がアカデミー監督賞をとった事は「歴史的事実」として覚えておいていい事だと思う。