| 2004年05月09日(日) |
【桃源郷フンザ目指しカラコルムハイウエイを走る・・バキスタン�Α� |
カリマバードのホテルの屋上から四囲を眺めると北側にはお結び型のフンザピーク、細く尖ったレディスフィンガー、雪を被って尾根が波うつウルタル1とウルタル2。東に目を転じれば遙か遠くに、雪を被ったなだらかな姿を見せるパタレーピーク。南にはちょっとだけ顔を出したゴールデンピークデュラーレン、ビューティースリーブ。西には右下がりの尾根の見えるラカポシと目立つものだけ拾ってもこれだけある。このほかに名もない山々が群集しているのが眺望できる。南側の山々の麓は剥き出しの岩肌を見せ、切り立った断崖の下に広がる砂原にはインダス河が激しい水勢で流れている。そしてゆるやかなスロープになった段丘にはポプラの林や杏林と麦畑が広がっている。よく見ると灌漑用水路が四通八達しているのが判る。このような山岳地帯ではたゆみなく水の管理が丹念に行われているのである。人の営為があってこそ豊かな緑が維持できていることが判る。人々は坂道をとことこ歩いていて自転車やモーターバイクに乗る人はいない。今は緑一色であるが、杏の花の咲く頃はまさに桃源郷であるに違いない。
 ホテルの洗面所で水を出してみて驚いた。灰色なのである。いくら放水してみても色はそのままである。備え付けのタオルは薄炭色に染まっている。これがフンザの普通の水である。現地の人達はこの水で顔を洗い、野菜や食器を洗い、洗濯をして生活しているのである。流石に飲み水だけはこの水を貯めて長時間かけて沈殿させ、上澄みを用いているようである。蛇口からふんだんに透明な水を何時でも利用できる日本人には想像を絶する体験であった。ここでは水とはこんなものだと思いこんでしまえば顔を洗い、洗濯するのも苦にならなくなるものである。肌はすべすべしてくるし潤いが感じられる。流石に飲料にはミネラルウオーターを使った。試しに上澄みを沸かした湯でお茶を飲んだり持参したウイスキーを割って飲んでみたが腹を下すこともなく却って体調も良くなった。フンザが世界でも有数の長寿村である秘密は案外この水にあるのかもしれない。 翌朝、外が白みかけるのを待ってカリマバードの町中を小一時間散歩した斜 面を上へ上へと上がって行くと道の両脇に商店が立ち並んでいるバザールがあるが、早朝なのでどこも店が閉じられていて人通りもなく静かである。四囲の山々は時々刻々その色合いを変化させて美しい。雪山に朝の光が部分的に当たって輝いていたり、明るい所と陰の所がくっきりと対比されたりしているが日の出と共に次々と色合いが変わっていく。 やがて道路には働きに出掛ける人々がそこここに現れ車が迎えにくるのを待 っている。 ちいさな集落なのでそれはちらほらといった感じである。多分道路工事の人夫として稼ぎに行くのであろう。幌をかけたトラックが賑やかにホーンを鳴らして近づいてくると器用に飛び乗っている。
通りがかりに顔を合わせた村人には誰彼となく「ハロー、グッドモーニン グ」と挨拶すると例外なくにこっと笑って「グッドモーニグサー、ハウアーユー」と返ってくる。年輩の人でもそうである。イギリス統治時代の影響なのであろうか。帰りに13歳の少年と道々話しながら歩く機会を得た。彼は綺麗な英語を話す。私の話すブロークンの英語をよく聞いていてV音やTH音を正してくれたりした。彼の言ったことの中で英国人は傲岸で怒りっぽいのに対して日本人は紳士的で優しいから日本人のほうが好きだといった言葉が印象に残っている。
ホテルに帰ってからジープに分乗し、フーパー氷河の観察に出掛けた。狭く急な坂道をジープが曲がりくねりながら進んでいくと高度はどんどん上がるし切り立った崖縁を通る時には冷や汗が背筋を伝う。やがてナガールの集落に到着した。ここでは杏畑と麦畑が広がっていて畑では女性達が草取りをしていたり流れで洗濯をしたりしている。鍬で田を耕している老人の姿も見受けられるここではゆったりと時間が流れている。傍らでは子供達が大勢屯して水遊びしたり走り廻っている。我々のジープが止まると子供達は物珍しそうに美しい瞳を輝かせながら集まってくる。田園風景と朴訥な人情が四囲の山々と調和して実に長閑で心安らぐものを覚える。 ここからはレディスフインガー、ウルタル、ゴールデンピーク、シャルダル ピーク等の山々がカリマバードのホテルの屋上から見たのとは違った角度と大きさで眺めることが出来、山の姿の多様な美しさに感慨一入である。ナガールで美しい山の景色をカメラに収めてから、ジープはフーパービレッジに到着した。ここにはヒルトンという休憩所が設けられていて、飲み物のサービスが受けられるようになっている。縄張りの外には現地の大人や子供の物売り達が手彫りの石の像やガーネットや水晶、青石等を手にして待ち構えている。
暫し寛いだ後、見張らし台に登ると眼下にフーパー氷河が広がっている。氷河とはいうものの色は薄黒く、丁度都会地に積雪後、雪掻きをして道路脇に積み上げた雪山が溶けかけてアスファルトの粉塵と混じり合い薄汚れているのと同じような色をしている。このカラコルム山系の地質がしからしむるところなのか、灰色の勝った氷河である。
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