2005年03月31日(木) |
秦 河 勝 連載43 |
このとき、後継天皇候補としての有力者は三人いた。敏達天皇の子で早くから太子の地位にあった押坂彦人皇子、用明天皇の嫡長子である厩戸皇子、敏達天皇と炊屋姫皇后との間に生まれた竹田皇子の三人である。
河勝としては、皇位継承問題がこじれずに厩戸皇子が即位するためには、次の次をねらうのが得策であると判断していた。このとき厩戸皇子は19歳であったからただちに即位するには若すぎるであろう。三人の中で一番年長者である押坂彦人皇子がまず即位し、病弱故に治世は長くないであろうからその次に厩戸皇子が即位するのが理想的と考えていた。問題は、竹田皇子との関係である。英明なことでは厩戸皇子のほうが勝るが、長年皇后の地位にあり発言力の強い炊屋姫は自分の腹を痛めた竹田皇子を即位させたいであろう。 秦河勝は厩戸皇子の所へ駆けつけた。 「皇子いよいよ天皇御即位のチャンスが到来しましたね」と河勝。 「私には政治をしたいという欲望はない。願わくば御仏の教えをひろめることに力を注ぎたい」 「勿体ないことでございます。皇子のように聡明なお方が天下をしろしめされなくて誰ができましょうや」 「世間は虚仮。唯仏是真」と聖徳太子。 「難しい言葉ですね。世間が虚しく仮の姿であったとしても、御仏の教えを広めるためにも即位される必要があるのではないでしょうか」と河勝。 「機会に恵まれれば即位しても構わないがその時は、捨命と捨身は皆是死也という心境で統治してみようと思う」
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