前潟都窪の日記

2005年08月23日(火) 三村一族と備中兵乱28

「ところで、今日は虎倉から素晴らしいお土産を持参致しました」
と妹の梢が言った。
「ほう。何を持参致した」
「ご覧になってからのお楽しみ」
と梢が言って控えの小姓に目配せすると、次の間の障子が開かれた。そこには妙齢の婦人が三つ指ついて平伏している。
「ほう。女ではないか。面をあげい」
直家の声に応えて、女が静かに顔を上げて直家を正視した。色白で形のよい顔は鼻筋が通っており、ふくよかな頬の奥には人懐かしげな目がこころなしか潤んでいる。
「ほお。美しいお人よのう。名は何と言う」
直家は体の中を美しいものにふれた感動の波が走るのを感じていた。
「お初におめもじを得ます。お福と申します。美作勝山の三浦一族の者でございます」
「・・・・・・・・」
何か言おうと口をもぐもぐさせただけで直家は暫し言葉を失っていた。あまりの美しさに見とれていたのと、頭の中に蓄えられている近隣諸国の出来事の情報を組み合わせてお福の背景を考えていたからである。やがて
「この度の合戦では、貞勝殿が落命された由。お福殿にはご愁傷のことと思います。聞けば城内の裏切り者による内通が敗因とか。さぞ口惜しいことでござろう」
と直家が言うと
「・・・・・ 」
お福は頭を下げただけで言葉がでない。涙ぐむ様子がしおらしい。
「忠臣、舟津弾正に讒言により詰め腹を切らさせたことといい、三村家親へ内通したことといい、金田源左衛門めは八つ裂きにしても憎みたりないことであろう」
「お悔やみのお言葉かたじけのうございます」
「桃寿丸殿が成人されるまで、ゆるりと過ごされよ」
「重ね重ねの御配慮いたみいります。こたびは無念の最後を遂げた夫貞勝の忘れ形見桃寿丸ともども、御引見賜り、いままた逗留をお許し戴き有り難う存じます。お福御礼の申し上げようもござりませぬ」
「なんの、なんの。お福殿そちらは畳もござらぬ板間ゆえ、脚も痛かろう、もそっとこちらへお越しあれ」
初対面で心を虜にされた直家は、お福のほうへ立ち上がって行き、その手を取って直家の席の前へ導いた。
「あれま、はしたないことで」
と消え入りそうな風情のお福を労り、励ますように直家が囁いた。
「桃寿丸殿の将来のこととか、貞勝殿の仇打ちとか他聞を憚ることもあるので話は近いほうがよい。遠慮されることはない」
 伏目がちにしているお福の着衣から、微かに沈香の匂いが流れて、直家の鼻孔を刺激した。近くで見ると唇に引いた口紅が薄化粧した顔に映え形のよい顔容を引き立てていた。(これは噂に違わぬ絶世の美女だ。このようなたおやかな美女ならば、後添えにしても生活に張りがでるだろう)とこみあげてくるものがあるのを直家は抑えかねて言った。

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