志を捨てた加賀美に淑子が魅力を感じなくなったからである。加賀美は見合いをして資産家の娘と結婚し平凡なサラリーマンの道を選んで今日に至った。淑子は医者に嫁いで 人の子を設げたが夫に若くして先立たれ、学習塾を経営しながら二人の子供を育てあげ親の責任を果たした。あのとき淑子の言った「目が輝いている」男として、弁護士になっ いたらもっと違った人生になっていただろうと思ったのである。 回想から現実の我にかえった加賀美は、年長者の貫祿を示さなければと平静さを装って 言った。 「私も二人の娘の親だ。幸い二人とも最近、世間並みな結婚をしてくれてほっとしてい ところだからローラさんの両親の心配はよく理解できるよ。やはり相手が年下だったら いに反対したと思うよ。外国人であっても多分反対するだろうな」 「普通の親ならそうでしょうね」 「そりやそうだよ。親が誰よりも娘のことは心配しているのが健全な家庭のあり方だと思うよ」 「世間の常識に従って、年齢差も三才位年上の平均的な男性と結婚して子供を二人位生んで、教育ママをやり、郊外に戸建てのマイホームを持ち、あくせく住宅ローンを返済するために家計をやりくりして夫の定年退職を迎える。あとは夫婦で海外旅行を何回か楽しんで孫達に土産物を買って帰る。そんな中で生を終える。これが平均的な日本人の現代の幸福というものでしょう」と世の中が分かりきっているような口ぶりである。 「ローラさんの幸福観とはどんなものですか」 「よく分かりませんわ。でも目が輝いて何かに向かって進んでいるという状態。心の満足とでもいったことではないかしら」 「心の充実という面に着目した点は最近の若い人には珍しく、敬意を表します。だが、 貴方の御両親の心配されるように幸福は精神だけではない。物質も伴うものですよ。そこ 老婆心ながら。幸福の条件というものについて話してあげたい。・・童話でも小説でも 王子様と王女様や若い男女が困難を克服して結ばれ、幸福な生活を送りましたというハッピーエンド物語が多いのですが幸福の内容は書いていないことが多いでしょ。そこで幸福とはなにか、その内容を考えてみる必要があると思いますが、どうでしょう」
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