加賀美は何時から自分の目は輝かなくなったのだろうかと考えた。加賀美が大学を卒業したのは日本の高度成長がその緒についた頃であった。加賀美には学生時代に付き合っ ている淑子という女性がいた。加賀美が理想主義的な人生観を語るとうっとりした表情 慎ましやかに聞いて呉れるのが淑子であった。淑子は土地の資産家の娘で三人姉妹の末っ子であったが父を早く亡くし、賢い母の手一つで育てられ、田舎の小中学校は加賀美と同じ町立の学校に通ったが、高校、大学はミッションスクールヘ進学した。 加賀美は勉強が良く出来て小中学時代は開校以来の秀才だと言われていたが、両親が 地からの引き上げ者であったため、飢餓の辛さをよく知り尽くしていた。苦学しながら 立の有名進学校を経て国立の一流大学ヘ入学した頃、加賀美と淑子の交際は始まった。 賀美は弁護士になってゆくゆくは政治家になろうという志を持っていた。この志を淑子によく語って聞かせていた。 淑子は加賀美の言葉を信じて、あなたの目が輝いている限り、志が実現するまでどんなことがあっても付いていくわと言った。加賀美の志は簡単に砕けた。アルバイトをしながら苦学を続けて、志を実現するよりも友人達のように学生生活をエンジョイしながら大 を卒業し、一流会社に就職して世間並の小市民的な生活をしたいとの誘惑が心に芽生えはじめた頃、淑子との交際は終わっていた。
無料で使える自動返信メール
アフリエイトマニュアル無料申し込みフォーム
|