前潟都窪の日記

2005年10月28日(金) ローラの結婚2

「まさか退職したいというのではないだろうね。ローラさん」加賀美武史は単刀直入に 切り出してローラの顔を覗き込んだき込んだ。
「まことに申し訳ありませんが、そうなんです。三月一杯で退職させて戴きたいのです が」ローラは消え入りたい風情で加賀美の目を見上げながらなにかを訴えている。目標 定面接の際、加賀美の質問に対して暫くの間結婚の予定はないと断定したことを思い出 ていたのかもしれない。

「つい十日前の目標設定面接の時、少なくとも後一年間は縁談のエの字も無いし、辞め ことはありませんと言っていたばかりではないの」とつい詰問口調になってしまう。
人事担当者としては社内の人の異動には常に神経を尖らせておかなげれば人員計画に齟 齬を来すので、野暮を承知で質問をする習性ができている。

「まことに申し訳ありません」
「おめでたですか」
「いいえそうではありません」
「それなら、何故辞めるのかな。あなたのお友達田沢真美さんが退職するのでそれが引 金になったということかね」
「それも一つのきっかけです」
「田沢真美きんが、あなたより後から入社してきて、あなたより先に結婚退職するから 辛くなったというのかもしれないが、そんなことはよくあることで何も気にすることは いと思うがね」
「そんなことは全然気にしていません」
「それなら、何も辞める必要はないじやあないの。不景気で就職難の時代なんだから、 職先を探すのも大変だろう」
「それはそうですが、いろいろありまして」
「職場で人間関係が気まづくなったとか、お局さんが嫌がらせをするとか」
「そんなのではありません。皆さん良い方ばかりですし、今時の会社としてはお給料も いほうだし、残業もないから働く場所としては最高だと思ってます」
「では辞めなくてもいいじやあないですか」
「でも辞めたいんです」
「何故ですか」
「どうしても理由をいわなければなりませんか」
「勿論。理由なしに退職届けを受理するわけにはいかないよ」
「まだ決めたわけではありませんが、多分結婚することになると思います」
「付き合ってている人がいるということですか」
「ええ」
「それはよかった。相手はどんな人なの。会社の人なの」
「色々ありましてまだ申仕上げる段階ではありません。私自身の気持ちとしてはその人 結婚したいと心に決めているのですが、障害が沢山ありまして今月一杯で結論を出した と考えている所なのです」
「それなら敢えて相手の名前は聞きませんが、どんな問題があるの、よかったら聞かせ 貰えないだろうか」
「まあいいじゃありませんか。はっきりしたら御報告いたしますから」
「親に反対されているということなの」
「それもあります」
「相手の人が海の向こうの人で肌の色が違うとか」
「それは違います」
「特殊な地域出身の人とか」
「それも当たっていません」
「それでは年齢が極端に離れているとか、或いは姉さん女房とか」
「・・・・・・・・・・・」
「図星のようだね。それで何才くらい違うの」
「かなり離れています」
「一回りも違うのかな」
「そんなに離れていません」
「それでは何才なのよ」
「8才です」
「相手が年下ということですね」
「ええ。恥ずかしいわ」
「何も恥ずかしがることはないでしょう。最近のはやりだからいいじやあないですか。 花だって8才年上の姉さん女房だったでしょう」
「・・・・・・・・・・・」
「それはそうとして、あなたのように美人で聡明な人が何も年下の人と結婚しなくても い人は沢山いると思いますがね」
「端の人はやはりそう思うのでしょうね。それでは、これで」
「待ちなさい。結婚するかしないかの結論は何時だすの」
「年内には決めたいと思っています」
「先方の両親はこの縁談には賛成しているの」
「ええ。そちらは大丈夫です」
「問題はローラーさんの両親の反対が障害になっているということなの」
「そうです」
「御両親がこの結婚に反対される理由は多分経済的なことだろうと思いますよ。ローラ ーさんは今28才でしょ。すると彼氏は20才だ。その年齢だと、日本の年功賃金制度のも では給料が安くてやっていけないのではないかな。有名芸能人か有名なスポーツ選手で ければまず経済的にやっていけないと思う。人の親なら誰だってそう考えるよ」
「そうなんですよ」
「御両親がどうしても許して下さらないときはどうするつもりですか」
「その時は駆け落ちする覚悟です」
「決意は固いのだね」
「はい」
「あなたのような美人で聡明な人が、何故8歳も年下の男性と結婚しようなどと考える かよくわからないね。丁度恰好の適齢者が沢山いる筈なのに」
「たしかに、好意を寄せて下さる方は沢山いますわ。でも私の気持ちが燃え上がらない です」
「贅沢をいって」
「今回は、気持ちが燃え上がったというわけですか」
「そうなんです」
「何故ですか」
「とても目の美しい人なんです」
「目が美しい?」
「そうなんです。輝いているのです」と蝋羅が真剣な顔付きで言った。
 加賀美は「輝いているんですか」とおうむ返しに声をだしたが、頭を一発殴られた思いであった。


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