蝋羅の結婚 暮れも押し迫り、営業担当者はカレンダーを持って挨拶廻りに忙しく、総務担当部長 加資美武史は大掃除の指揮やら年末調整の指示とか、迎春のための門松、しめ縄、保有 両のお札の交換等、目の回る忙しさのただなかに居た。 「部長、少しだけお時問を戴けないでしようか」と石沢蝋羅が真剣な眼差しで言った。 「面倒な話かいと加賀美武史は、心臓がキュンと鳴るのを意識しながらも平静を装って いた。 「ちよっと込み入っていますので」と蝋羅は人の良さそうな顔の頬に紅をさしながら答 えた。 「それでは、応接室へ行こうか」と加賀美武史は蝋羅を応接室へ促した。 加資美武史はこの会社へ入社以来、人事担当者として、何度こんな形で女子事務員と 対したことであろうかと思いながら庶務の小母さんヘコーヒーと緑茶を頼んで応接室へ った。今までの経験では十中八九が退職の意思表示である。早速明日には求人広告会社 電話して補充採用の広告をうたなければなるまいと考えていた。職業安定所は最近「ハ ーワーク」等と呼び名を変えて、失業者達の集まる所という暗いイメージを払拭しよう しているが、若い女性達の職業紹介業務にはあまり寄与していない。駅頭で小銭を払え 簡単に入手できる「トラバーユ」とか「ビーイング」等という求人雑誌のほうが若い女 達にとっては手っとり早い情報源だし気にいった賞品でも選ぶ感覚で就職先を選べるか である。 蝋羅はローラと読み、一風変わったバタ臭い名前なので、珍しさも手伝って苗字で石 と呼ぶ者はなく「ローラさん」で通っていた。ローラは三年程前に欠員補充のため「ト バーユ」に求人広告を乗せた時、これに応募してきた三十人の中から唯一人選ばれた気 てが良く容姿端麗で秀逸な女子事務員であった。機転が効くことは営業事務には最も向 ており、その如才ない機知に富んだ電話のやりとりと来客の応対には客先に評判が良く 会社のイメージアップには大いに貢献している看板娘ともいうべき事務員であった。 勿論ワープロはブラインドタッチの技能を有しており、汚い見積もり原稿でもこれを ちどころに立派なドキュメントに仕立て上げて呉れるし、検算を頼めば見とれる程の素 い指先の動きで電卓を叩き間違いを正して呉れるのである。そしてなによりも人柄がよ 、美人ですらりと伸びた脚はファッションモデルにしても十分通用するものを持ってい 。 年齢は28歳で適齢期にあり、社内外の若い男性からはよく電話がかかってきていたので 彼女を射落とす果報者はどんな男であろうかと社内の関心事であった。
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