■春雷■(突発小説)別名‘行き当たりばったり’
僕はいつ生まれたのか知らない。どこで、どうやって生きていたのかも知らない。 僕は、此処に来る前、何をしていたのかすら覚えていない。 ただ、ある時気が付いてみたら、此処に、立っていた。 僕が何者かも僕自身は知らない。 だけれど、必要なことは覚えている。
此処はどこまでも続く草原。僕の膝くらいまである緑が、時たま吹く風になびいてはザァァと、音を立てては通り過ぎていく。 いつも薄い霧に覆われていて、遠くまで見通すことは出来ない。 緑と、白と、水に濡れたような感じの場所。 陽は射すことが無くでもだからといって暗いわけじゃない。 太陽はこの厚く覆った霧の遥か上から、射し込んでいる。
僕は僕自身のことは何も解らない。 だけれど、それ以外のことは知ってる。 此処がどこなのかも、誰を待っているのかも。 僕は待っている。訪れるのを。そして、何をすべきかとも。 僕は導く。誰が産み落としたのか、どんな意志によって此処に使わされたのか、それは知らない。 でも覚えていないのなら、きっと必要ないこと。 僕は何と呼ばれる存在なのか解らない。 でもそれはきっと必要ないこと。
遠くで神鳴りが聞こえる。 もうすぐ来る。此処に。僕のもとへ。 彼女が。神鳴りは先触れ。彼女が現れる事を報せる響き。 僕は彼女と何をすべきか知っている。
彼女は僕の主。唯一の使い手にして、守護。 僕を得、そしてこの地界を護るべき者。 彼女はこの先僕とともに血塗られた道を往く。 彼女は罪を裁く者。 この地界と交わらない場所に存在する“天界・空界・深界”。 その深界の罪を裁く存在。
神鳴りが近づいてきた。 身体に、手足に音が響く。 もうどれくらい彼女を待っていたのか解らない。僕は長い時間此処で待っていたような気もするし、幾らも待っていないような気もする。 それでも、出逢えるのならそれでいい。
そこは天に果てしなく近いとされまたて果てしなく大地の奥底にも近い場所。 今まで、一族のどんな屈強の者でも、また有数なる巫女でも近付けなかった場所へ少女は歩み寄っていった。 どんな結界に阻まれてか、その場所へたどり着くにはその存在の主と成るべきものにしか近寄れない場所であった。 果てなく広がる草原の向こうに、やがてうっすらと一振りの剣が現れる。 それは誰が打ったのか定かではないが、人間の手によるものではないことは確かだった。 それは余りにも美しく、そして荘厳であった。 細身の刀身に飾り気のない柄。全てに於いて実用に重点を置かれている剣。 ただその剣だけが深く地に突き刺さり、高く空へと伸びている。 少女は深く息を吸い、そしてゆっくりと柄に手を掛け、力を入れる。
「迎えに来た。草薙」
それが少女と少年の始まり。
◆……何さ?この話は。もとネタ有った所に、今日の雷雨からヒント(?)を得てこんなものになりました。が、話最初は違うの書こうと思ってたのに。どうしてこうなるかな。まあいいが。続くのか?(本人さえ解らない)……◆
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