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2024年10月24日(木) ■
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『天使乃恥部』Day 1

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『天使乃恥部』Day 1@I'M A SHOW


天国と地獄。愛されてるね、愛してるよ。

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菊地成孔(sax/vo/cond)・大儀見元(perc)・田中倫明(perc)・林正樹(pf)・鳥越啓介(cb)・早川純(bn)・堀米綾(hp)・牛山玲名(1st vln)・田島華乃(2nd vln)・舘泉礼一(vla)・関口将史(vc)
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『天使乃恥部』リリースに合わせた2days、1日目。今回パッケージがひとつのミクストメディア作品(音源と映像入りUSB+「甘い混乱」「とても清らかで淫らな声」の香水2種のボックス)で、拘りに拘ったためか発送が間に合わず、ライヴ当日に現物を手にしていたひとが少なかったようです。「香水を纏って会場へ行きたかったのに!」というひとのために、ロビーにはムエットが用意されておりました。

第一声は「林さん、Bマイナー」。菊地さんはタキシードを新調してちょっとウキウキしていた様子。シャツの袖が長めでかわいいななどと思っていたのですが、「萌え袖!」「タックが3つあるの、珍しいでしょ!」とキャッキャして見せびらかしておりました。こういう話が出たのは終盤。リリパ初日、かつ初演の曲が多く、演者も聴衆もいつもとは違う緊張感がありました。最初のMCで「こういう場所だからってのもあるけど、静かですね……」というくらい。そりゃあなた、集中して聴き入ってたんですよ! 前回がスタンディングだったのでギャップがすごい。この「両方ある」のがいいところ。

「自分が作った曲じゃないものを演奏する」。今作には2021年に設立したギルド『新音楽制作工房』のメンバーが作曲したものも多く収められており、これがなんというかPTAのレパートリーでしか有り得ない響きを持ち乍ら、しかしこれ迄にはなかったカラーを感じる按配なのです。それこそトップノートで知らないPTAの姿に困惑し、ミドルノートで知っているPTAが現れて合点し、ラストノートでそのふたつが融合する。今迄のPTAの残り香と、聴いたことがなかったPTAの香り。大野雄二の「愛のバラード」(『犬神家の一族』)みたいなニュアンスもあったな……なんていえばいいか……伝われ……。

クラシックのように確固たる楽譜はある。「俺と大儀見がいちばん出来てない」なんて謙遜してましたが(このとき大儀見さんが「ええっ、俺?」みたいな顔してたのが面白かった)、楽曲のリズムを決定づけているのはコンダクターであり、パーカッションのふたりでもある。クラーベで割っていくポリメトリックには所謂楽譜にない箇所がある。ザックリ分けると最初のカウントから状況が変わるケース──例えば菊地さんのストラップが絡まったりしてセッティングが間に合わない等──と、各々のソロを長く聴かせたいケース──例えば田中さんと大儀見さんのセッションを楽しみ続けたい──のふたつ。そういうときサインひとつで簡単に(そう、簡単に見えてしまう)拍の移動が出来る。

100年後(南米のエリザベス・テイラーに倣うなら1000年後?)も聴き続けられてほしいと思うようなレパートリーを、この楽団は持っている。しかし、1000年後にこれらの楽譜が残っていても、このスリリングな「合奏」を誰が出来るだろう? 唯一無二のソロイストたちが奏でるあの、状況によってコンダクターがいくらでもその幸せな時間を延長してくれる音のやりとりを1000年後は聴くことが出来ない。いや、10年後だって怪しい。

PTAがなくなったら、このメンバーがいなくなったらそれが聴けなくなってしまう。ヤダーッ(ちいかわ)とわんわん泣いてしまいそうになった。楽団の維持のたいへんさをMCでも話してましたが、20年続いているのは本当に奇跡ですね。

セットリストに新曲が加わったこともあり、既存の楽曲もそれにチューニングした香りを纏っていた。鉄板曲にも違う表情が見え隠れして非常にエキサイティング。田中さんは3曲めにはもうジャケットを脱ぎ、大儀見さんもいつの間にかメガネを外している。林さんがリズムで相当遊んでいた。スタッカートのバリエーションを次々と繰り出してくる。マイクがない箇所でハンドクラップも繰り返していた。自分のなかでリズムを消化させている印象。「ルペ・ベレスの葬儀」ではここのところ鳥越さんがエレクトリックギターのようなエフェクトをかけたボウイングソロを投げてるんだが、この日はそれに拍車がかかっており、菊地さんがニヤニヤしていた。だいたい各々のソロが始まると笑いが堪えきれないといった表情してますよね。そりゃそうだ、楽しくてたまらないだろう。

といえば、自分が唄ってるときもニヤニヤすることがあるけど(スキャット部分が顕著)、これはこれで何か違う感情が沸いているんだろうなあ。なんだろうな、言語化されていない音を発音していることがおかしくなっちゃうのかな。この日は「小鳥〜」ですごいニヤニヤしてました。すごい幸せそうだった。MCも楽曲のひとつのようなもので、菊地さんは喋り乍ら言葉を割っていく。音楽が零れ落ちる。

アンコールでは新作の紹介とともに、5月の芸劇でもやってた香水をシュッシュシュッシュまいて何秒で客席に届くかをやってた。2種両方まいて混ぜちゃってた。「この香水は、年齢、性別など関係なく使ってもらえるよう設計しました」。たった一度だけの演奏で終わる筈だった楽団が20年続いた。そのことへの感謝と、全ての始まりとなったブエノスアイレスの旅をセッティングした『エスクァイア』編集者・小谷知也氏、最新作から「アンリ・ルフェーブル」の作曲者・丹羽武史氏、そして香水の調香師・沙里氏(「魔法使いサリちゃん」!)を客席から立たせ、聴衆とともに拍手を贈る。オーラスは「天使乃恥部」。今、ステージの終わりにはこれしかない。「失礼、演奏中ですが速報です」、音源で聴いていたのにドキリとする。「このあとは、チェロのソロ」。待ちかまえていたかのように関口さんが猛然とソロを弾き始める。

この日は席が前だったので、開演前ステージ上の菊地さんのセッティングを撮影しに来るひとウォッチングをしていた。「年齢、性別など関係なく使えるよう設計された」香水にぴったりの、バラバラな聴衆。本当にいろんなひとがいる。キメッキメにドレスアップした方からピットインから来ましたな趣の方迄、揃って楽団にポワーとなっている。「両方ある」は全てを手にしていると同時に全てを失っているのかもしれない。歌舞伎町クラブハイツ、九段会館、新宿LIQUIDROOM、新宿BLAZEも今はもうない。そして、今のメンバーによる録音物がとうとうリリースされた。儚さと永遠は表裏一体。おやすみなさい。

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setlist

01. 闘争のエチカの歌
02. 京マチ子の夜
03. 嵐が丘
04. アンリ・ルフェーブル
05. 私が選んだ貴方への頌歌
06. 小鳥たちのために ��
07. 色悪
08. キリング・タイム
09. ルペベレスの葬儀
encore
10. Woman “Wの悲劇”より
11. 大空位時代
12. 天使乃恥部

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余談。

・ソプラノがやっぱ最高。テナーは脱力して高音を出すようになって安定してきてる
・それにしたってキリトリしちゃいかんナンバーワン、楽曲もMCも
・全部聴かないと浮かび上がってこないものってあるのよ……
・髪型、先日見たときは武満徹みたいだなと思っていたが、今日は若い頃の松本清張に見えた。メガネのせいか
・舘泉さんと関口さんをBLに設定してるといってるけど、大きな声ではいえないが違うんだなー、どこにそれを見出すかというと田中さんと大儀見さんですねー、演奏見りゃ一定のひとには伝わりますよねー

・それにしても何度聴いても「Woman “Wの悲劇”より」のオケはすごいな、よく唄えるなーと思う。窪田晴男ら人種熱のメンバーが「若気の至り」でめちゃめちゃややこしいアレンジにした『鬼ヶ島』の楽曲を、平山みきが「こんなオケじゃ唄えない!」と泣いたエピソードを思い出してしまう(最終的には唄えた平山さんもすげえ)

・林さんのボウタイすごいかわいかった! ネッカチーフをリボン型に結んでたのかな?

・林、鳥越、早川は同期って話が胸アツ。偉大な初代は南博、鈴木正人、北村聡
・菊地さん曰く「同期だから皆そろってメガネしてるの?」。いわれてみれば皆さんメガネ
・それいったら南さんも鈴木さんも北村さんもメガネしてたわねと思い出す

・「ルペベレス〜」導入ソロ、今回菊地さんが紹介されてましたが早川さんの自曲だそうですね。ここ毎回泣いちゃうんだ……『天使乃恥部』には収録されていないパートなので(これがライヴで聴けるうれしさよ)、早川さんのオリジナル作から探すしかないか。音源あるかな、タイトルを聴きとれなかったのが悔やまれる(岸部露伴ostの「東京-ブエノスアイレス」かなとも思うけどちょっと違う気もする…変奏かな)