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2025年07月05日(土)
『消防士 2001年、闘いの真実』『小林建樹ワンマンライブ BLOSSOM 夜空に咲いた打ち上げ花火』

『消防士 2001年、闘いの真実』@シネマート新宿 スクリーン1

昼間は『消防士 2001年、闘いの真実』。いい映画だった…これもファクションなのですが、最後のテロップを見てここから18年もかかったの!? というのが衝撃的で……火事は火を出したひとだけでなく救助にあたったひとたちの人生を根こそぎ奪ってしまう。つらい

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jul 6, 2025 at 0:54

原題『소방관(消防官)』、英題『FIREFIGHTERS』。2024年、クァク・キョンテク監督作品。2001年に起こった「弘済洞火災惨事事件」がモチーフとなっている。英題が何故「Fireman」ではなく「Firefighters」なのかは劇中で語られる。今では、性別を限定しないこの呼称が一般的になっているとのこと。

初めて韓国に旅行に行ったとき、地下鉄コンコースがものすごく広いこと、防災グッズが常備されていることに驚いた。特に防毒マスクがとても沢山用意されている。戦争(休戦)中だから、非常時に備えているのかなと思っていたのだが、その後『がんばれ!チョルス』を観て、2003年の大邱地下鉄火災をきっかけとした対策だったことを知る。そのことを思い出した。教訓を活かす。しかしその教訓の前に、多くの犠牲が払われている。待遇が改善されたとしても、失われた命が戻ってくることはないのだ。

物語の中心となるのは、消防隊のなかの救命班。火災現場に入り、建物のなかに取り残されているひとを救出するのが任務だ。重いボンベを背負い、酸素がなくなるギリギリ迄捜索と救助にあたる。救出した被災者を支えたり背負ったりするため重装備が出来ず、消火活動も出来ない。そして信じられないことに、彼らが着ているのは防火服ではなく防水服で、手袋も普通の軍手だったりする(なんと経費が出ない!)。国家〜! 行政〜! なんとかして! 怪我人はしょっちゅう出ていて、死者すら出る。隊員たちは自分たちの仕事に誇りを持ち任務に当たっているが、家族の心労は積もる一方。配属された新人は初日から自分たちが置かれている環境に疑問を持つ。

ちなみに当時の韓国は違法駐車が多く、消防車が立ち往生することもしばしば。行政〜!(再)班長は地元の議員に待遇改善を訴えるが、なかなか話が通らない。そんなとき、弘済洞で火災が起こる。

火災現場の迫力が凄まじい。マスクで制限される視界、酸素の残量を知らせるアラート音によるパニック。救命隊員が置かれた過酷な現場環境に、序盤からもう震え上がる。こんなに大変な仕事をしているのに、公務員(当時は地方公務員)だから給料いいんでしょとか待遇いいんでしょとか好き勝手いわれていて、ホント市民は公務員にもっと敬意を持てよ! と怒りにブルブルしますよね。事故も災害も起こらない平穏な日々が続いていると、公務員いいよなーサボってんなーと思うかもしれないけど、いざ非常時となったらその最前線に立つのは公務員なのだという想像力は常に持っていたいもの。持てよ! 想像力を!(誰にいっているのか)

スレた大人なので、この手の映画を観ていると「あーこのひとすごくいいひとだからきっと死ぬ」「あー今すごくいいこといったからこのあときっと死ぬ」とか考え乍ら観てしまい、実際そうなる。しかし、そうした隊員たちの人柄や、普段の生活の様子が丁寧に描かれることで、替えのきかないそれぞれの人生に思いを馳せることが出来る。冒頭にも書いたが、韓国で消防士を国家公務員とすることが国会で可決されたのは2019年のこと(2020年から実施)。任務の妨げとなる違法駐車を排除する権限も得た。しかしこんな大事故が起こってから20年近くもかかったのかと、やりきれない気分になる。なんでこうも時間がかかるのか……。この「弘済洞火災」は放火、違法駐車、勘違いといったエラーが重なった末の大惨事だったということもつらい。亡くなったひとたちは戻ってこないが、二度とこんなことが起こらないようにと願うばかりだ。

班長役のクァク・ドウォンが素晴らしい演技。このひと怖い役とか怖がってる役とかヤな役とか殺される役とかで観ることが多いので、そうだった、こんな優しい表情や声音が出来るんだ! 『哭声』でもすごいいいお父さんだったもんね! と改めて感心。いい役者さんですよね。彼をサポートする同僚、ユ・ジェミョンとの関係性も素敵でした。てかユ・ジェミョンよかったなー! ユーモアと哀愁のいいブレンド。

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でですね、以下余談というかなんというか。

出演者をチェックしていなくて、題材に興味を持って観に行きました。そしたらクァク・ドウォンめっちゃメインキャストだった。てかこれ、主役なのでは? 終映後ポスターに顔出てたっけ? と見に行った。出てない。名前は書いてあった。パンフレットを買った。出演者のプロフィール、クァク・ドウォンだけ炎と煙に巻かれた状態で全く顔が見えない写真が掲載されていた。監督や他のキャストのインタヴューにも名前が出てこない。意図的としか思えない。なんなん? ……そこで思い出した。クァク・ドウォン、飲酒運転で摘発されてたな……。

帰宅後調べてみたら、今作は2020年には撮影を終えていたのだがコロナ禍の影響で公開が延期され、その後やっと2022年に公開が決まったところにクァク・ドウォンの事件があり、再び公開が2年延期されてしまっていたのだそうだ。違法駐車ダメ! て映画に出といて飲酒運転(そして路駐)はあかん。あかん過ぎる。えーでもさ、でもさあ……。


予告編には普通に出てるじゃん! ポスターとパンフの扱いはなんなん! ゾーニングということであればwebでも観られる予告編に出してるのはおかしいし、観に来たひとの意志で購入するパンフレットに写真載せないのもおかしい。配給のアルバトロスの方針がわからない! てかパンフの写真、あんなん載せるくらいなら文字だけでもよかったじゃん……コントみたいだったよ! なんなん!

悪質なセクハラで裁判してた某ダルス氏なんて今や堂々と出てるのにな……『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』のプロモーションには全く参加してなかったけど、『THE WILD』なんてポスターにドーンと出ていたよ。こっちが気を遣ってSNSにポスター画像あげるときステッカー貼ったくらいだったよ。あの『イカゲーム』にも出てるんでしょ。全世界配信の作品じゃないか。

セクハラは犯罪の範疇じゃないってことなのかしら。でも性被害者のフラッシュバックに配慮するということならこっちの方がよっぽどゾーニングが必要じゃないのか。解せない。解せないわ(愚痴)。

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・消防士┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。本国での動員数も載せてくれてていい資料、度重なる延期にも関わらず結構ヒットしたようでよかったよかった

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『小林建樹ワンマンライブ BLOSSOM 夜空に咲いた打ち上げ花火』@Com Cafe 音倉

7月に入ったばかりだけどもう納涼気分でした、はあいいライヴだった、団扇のお中元(?)つき

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jul 6, 2025 at 0:46

いいたいことと思うこと、いっていいかなと躊躇していることがごちゃ混ぜで差し出される。しかし最終的に、それらは全て演奏と歌に集約される。不安、緊張に満ちたライヴ。そして最後には笑顔のライヴ。

かつて楽曲提供をした嵐の解散、米騒動、続く戦争。さまざまな世情に心を痛め、自分のために書いた曲とひとのために書いた曲の違いを考える。提供曲は「腑抜け」になっちゃうなんてなかなかドキッとすることを話しつつ、それでも小林さんのつくる曲には芯のようなものがある。

丁寧な演奏が印象に残った。勿論いつもそうなのだが、今回は特に。「ヌケ」や「引き算」を感じるライヴだった。休符を意識しているというか、リフが虫喰い的。そしてその虫喰い部分にリズムを加える。「進化」ではストンプのような「ダン!」という足音が加えられた。そして丁寧に演奏し唄いつつも、ひらめきはどんどん追加されていく。ひとつの楽曲の中に違う曲のフレーズが次々と入ってくる。今のはブリッジ? 次の曲に移行した? と思っているとそれは間奏だったりもする。

白眉は「ハート♡Radio」。架空のラジオ放送局のジングル、各局をチェックしていく様子が次々と展開されていく。まさに「音で絵を描く」。先日も書いたけど、ちいさい頃AMラジオを巡回していて朝鮮語の番組を受信し、「わあ、海を超えて外国の番組が届くんだ!」とワクワクしたことを思い出す。今はradiko等のアプリを介して聴くことが殆どなので、偶然電波をキャッチするなんてことは皆無に近い。ラジオってダイヤルをちょっとずつ廻して電波をピッタリ受信する過程も楽しかったんだよなあ。そんなワクワクした気分を思い出させてくれる、ラジオの魅力が詰め込まれている素敵な曲。

といえば「キナコ'87」のインパクトは何度聴いても薄れないな。こちらも夏の部活の情景が瑞々しく描写される楽曲なのですが、そんな、運動して汗かいて水飲んでそれで食べたいのがわらび餅!? と聴いててこちらの理解力がバグる(笑)。いや、疲れたから甘いものが食べたいのはわかる。わらび餅も本体はゼリーみたいでするりと食べられるのもわかる。でもキナコは……喉に詰まるじゃないか。あまりにも個性的なチョイスで、こういう曲って小林さんにしか書けないよなあともはや感動すらしている。

夏といえば、のアルバムは『Rare』。小林さんのリスナーであれば周知のところだが、同時に「苦しみ抜いて作ったアルバム」だということも知っている。その話はライヴのMCで何度も聞いていることだが、今回そこに「多くのひとに助けてもらって作り上げることが出来た」という話が加わった。この日は私に小林さんを教えてくれたにゃむさんとライヴを観ていて、開演前や幕間に「2枚目(『Rare』)って大概のひとが産みの苦しみを味わうっていうものね」「2ndから知ったので私は大好きだし思い入れがあるんだけど本人には辛い思い出が強いみたいだね」なんて話していたのだった。今回初めて関わったひとたちへの感謝の言葉のようなものが聞けて、少しだけホッとしたのだった。窪田さん聞いてる!? なんて胸が熱くなったりして。窪田晴男が関わっていたのはデビュー前から2nd迄。そうそう、この日は『Rare』期の「花」もやってくれてうれしかったな。

といえば、私が初めて行った小林さんのライヴは大学(どこだったっけ…中央大だったかなー)の学祭で、窪田晴男とのデュオだったのだ。そのときの演奏に一聴惚れして今に至るのだが、ふたりともギターでの演奏だった。学祭だったため運搬しやすいギターしか持ち込まなかったのかも知れない。直後に観たリリースしたての「SPooN」MVでもギターを弾いていたので、しばらくは小林さんのことをギタリストだと認識していた。今ではやはりピアノマンだと思っているが、ギターの演奏も本当に個性的だし魅力的。今回「祈り」を演奏する前に、「この曲はもうどのくらい唄ったかわからないくらい唄っていて、試行錯誤もしてきた。ギターでやったこともあって」という話に「それ聴きたい!」と思ったけれど、それは近年定期的に演奏を聴ける環境になったからこその贅沢な望みかな。次のライヴ日程については告知されなかった。

定期的にライヴ活動を再開したのは2022年、ウクライナとロシアの戦争が始まったあとのこと。そのときからもう何回この曲は演奏されただろう。「全く同じことを続けて、全く同じクオリティの演奏をいつでも出来るのが理想」といった山下達郎の言葉を紹介し、「自分にそれが出来るとは限らないけど、いつでも丁寧に演奏することを心掛けている」と話したあとに演奏されたこの日の「祈り」は絶品だった。光を放つようなピアノ、抜け良く響く高音の歌声。この曲には、やはりピアノがよく似合う。また聴ける機会に居合わせることが出来ますようにと願う。

音楽は世に放たれた瞬間から聴き手の解釈に委ねられる。だからいろんなことに利用される。戦争にも、平和にも。聴き手は平和な世界に鳴り響く音楽を聴きたいと願っている。小林さんの「祈り」が、争いの続く世界へと届いてくれることを願っている。

(セットリストはツアー終了後転載予定)

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余談。

・山下達郎がそういっていることは知っていたが(確かB'zもだけど、基本MCも変えないそうですね。どの土地に住んでいるひとにも同じ内容のライヴを届けたいという思いがあるそう)、ですよ。という芸人さんのことは知らなかったので「あ〜い、とぅいまて〜ん!」というネタについてはライヴ後教えてもらった(笑)。いつでも同じ「あ〜い、とぅいまて〜ん!」をいえるように、毎日毎日練習しているそうです

・嵐のメンバーに会ったことがないというのには驚いた。楽曲提供者なのに会えないのかー。レコーディングにも立ち会わなかったってことですもんね。アイドルへの楽曲提供ってコンペのことも多いそうだし、いろんな意味で厳しい世界だわ