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2026年02月14日(土)
芸劇dance 橋本ロマンス×サエボーグ『パワーチキン』

芸劇dance 橋本ロマンス×サエボーグ『パワーチキン』@東京芸術劇場 シアターイースト

某チキン店の養鶏場には品種改良(?)された4本だか6本脚のニワトリがいるという都市伝説がありましたが、パワチキは手羽6本腿8本の羽毛もないトリ。食肉を効率生産するということは〜というのをこんなにポップに見せられると怖さと切なさで泣いちゃうね!橋本ロマンス×サエボーグ『パワーチキン』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Feb 14, 2026 at 17:29

サエボーグは愛知迄追いかけまわしてたので、やっと東京で公演が観られてうれしかった! 橋本ロマンスは寡聞にして存じ上げず、今回の作品が初見。ダークさが魅力かな。着ぐるみで家畜たちを演じ切ったダンサーたちも素晴らしかったです!

という訳で橋本さんのサエボーグさんへのラブコールから始まった(後述リンク参照)この企画。構成・演出・振付が橋本さん、構成・演出・美術がサエボーグさんというクレジットになっていました。現代美術作品から舞台作品になったといえば解りやすいかな……うーん、でもそう断言すると零れ落ちてしまうものがあるのも事実。アート作品? ダンス作品? なんだったんだ!? というインパクトの強い作品となりました。橋本さんの他の作品を観たことがないので、サエボーグ視点寄りの感想になります。

『House of L』等に代表されるサエボーグの家畜着ぐるみショウシリーズは、場が提供されているというイメージ。鑑賞者は農場に入り込んで自由に動き、遠巻きに眺めるもよし、家畜たちとスキンシップするもよし、一緒に踊るもよし、と自由なスタイルで参加するものでした。照明も基本地明かりのみ。場面転換はなく、農場で起こっていることをそのまま観る、という参加型のアート作品です。解体ショーもあっけらかんと行われ、腹を割かれた動物たちは苦悶する様子も見せず内臓をぶら下げて踊っていたりする。生きることにも死ぬことにも疑問を持たない、ただただ懸命に生きてニンゲンに奉仕する動物たち。そのカラッとした明るさに怖さ、悲哀を感じたものでした。

今回は、演者と観客はステージと客席に分かれた状態での上演です。自由席でしたが上演中移動は出来ず、終始座ったまま観ることになります。客席配置は通常の客席と、ステージ下手側に3列分のL字型。農場の書き割りはご存知デパートメントHのオーガナイザー、ゴッホ今泉の筆によるもの。「退室する場合は客席後方の出口から。元の席には戻れないので荷物を持って出てください。再入場の場合は後方に用意した席に案内します」と事前アナウンスがあり、ロビーやステージ前に「前方のお客さまにはダンサーが触れる場合がございます」といった注意書きがありました。この注意書きは初日からあったのでしょうか。

……というのも、初日に「ダンサーが触ってくる! キッショ! キッショ! 後ろに座った方がいい!」といったひとりの感想がSNSでエラい拡散されていたので……。いや、感想は自由ですけども! キショいと思わないひともいるよ! 私も客いじりされるのは苦手なんですが、動物に扮した演者が遊んで〜、触って〜と寄ってきたら抵抗なくハグしたりは出来る方です。まあ、あの感想を目にして前に座ろうと決めたひともいたかも知れませんね(ニッコリ)。実際のところ「触ってくる」というのは、家畜たちが遊んで遊んでと擦り寄ってくるという感じでした。そりゃなでるわ。よしよしするわ。人懐っこい動物たちとの幸せなひとときですよ。

畜産農場の一日。台詞は一切ありません。夜中の農場でプーリンセス(フンコロガシ)とハエがうんこと戯れるシーンから開幕。家畜たちは皆ラテックス星の着ぐるみで演じられますが、ハエだけは黒子が操演していました。このオープニング演出がなかなか怖くてですね……暗いし、不穏な雰囲気だし。未就学児も入場可だったので、ちいさい子づれのお客さんもまあまあいたのです。泣き出す子はいなかったけど、「こわ〜い」「帰ろうよう」といった声が聴こえてきました。だ、大丈夫か……などと思ったのですが、明るくなってからは静かになってホッ。まあ、寝たのかも知れんが楽しめたかしら……。農場でのびのび暮らす家畜たちがお客にじゃれついたりする楽しい場面と、搾取されていく家畜たちの阿鼻叫喚といった残酷な場面が交互に続きます。内容としてはまあまあハードコアなものだと思うのでトラウマにならなかっただろうかなどと心配もしましたが、『もうじきたべられるぼく』もベストセラーになっていることですし、いい思い出になるといいなどと思いました。

暗転や場面転換があるのが新鮮。登場人物ならぬ登場動物たちのキャラクターがより演劇的になった印象でした。そこには意志がありました。ミルクタンクを抱え逃げ惑うサエビーフ、身体を寄せ合い震えるサエポークたち、そんな家畜たちを柵の影からひっそり見守るサエチキン……サエチキンは今作の影の主役だったかも知れません。ひたすら卵を生んでは回収されていた彼女(?)はラストシーン、ひとつの選択をします。誰もいなくなった農場でひとり(1羽か)、出てこようとする卵を体内に押し戻すのです。泣いてしまった。サエチキン、大好きなのよ……めっちゃかわいい。中の人がどう入るかを考えたデザインもすごい。今回ますます大好きになりました。生き延びてー! と心の中で叫びました。

タイトルロールの新キャラ・パワーチキン(通称パワチキ)は3羽登場。それ迄の家畜たちとは明らかに異質なものです。過食部を大量に、効率的に提供するために誕生した、現実には存在しない(た、多分)品種です。登場シーンからしてナトリウムランプによるべったりとした質感。畏怖の念すら抱きました。パワチキはやがて自らの部位を外し、観客に分け与えていきます。手羽、手羽、腿、腿、そして胸。最後には頭部も外し、頭を残した1羽と合体して歩きます。む、ムカデ人間……と思ってしまったのは私だけではなかったようで、検索したら同じようなこといってるひとがいました。ははは、共通言語。

すまん…すまん……ニンゲンのためにこんな……と己の罪深さに慄き乍らその姿に見入るのですが、同時にあのパワチキ一羽だけトサカがついてるな、なんかこのトサカレモンに似てるな、レモンソテー用かな……などと思ってしまうそんな自分がイヤになる。つくづく人類は絶滅した方がよいと思うのですが、まあ、ままにならぬは浮世の習い。教訓を得なければならないということはないけれど、やっぱり気付きと心構えがあるのは事実で、せめて自分の周りではフードロスをなくそう! 無駄な殺生はいかん! とか浅いことを思う訳です。でも自分が今出来ることはそれだけなのよ。

はー、それにしても素晴らしいデザインだった、パワチキ。リボンで装着された部位といい、どうやって着付けするんだろうと考えてしまった。部位を外すと中の人の体型が顕になりハッとしました。そう、今回「中の人」を意識してしまうんですよ! これは今迄のサエボーグ作品ではないことだった! 中の人はニンゲン! 当たり前だけど! パワチキのウォーキングといい、黒子ちゃんが見せたキレのよいターンといい、ところどころでダンサーの技術に感心するところがありました。演者は全員オーディションで選ばれたとのこと。この辺は橋本さんの作品だからと応募してきたダンサーも多かったのかも知れないですね。

ここでまたサエチキンの話になるのですが、今回サエチキンの中の人素晴らしかったと思うのよ……農場に1羽とり残されて、エサをつついて、パタパタ歩いて。寂しさと戸惑いの入り混じったソロでした。原知里さんという方でした。うえーんこの方が中の人のサエチキンにまた会いたいよー。

黒子ちゃんがモップでフロアをゆっくり拭いていくシーンが結構長い時間ありました。そういえば『House of L』でサエポークと遊んでいたとき、ガワの隙間から汗がパタパタパターッと落ちてきたなあ。フロアは中の人たちの汗で随分濡れていたのでしょう。滑ったら危ないから念入りに拭いておかないとね。暑い衣裳、不自然な姿勢で家畜たちを演じ切った中の人たちの献身にも心からの拍手を贈ります! 祝祭感と悪夢が同時に現れるような、DJ TKDの音楽も格好よかった! サエボーグ作品ではお馴染みの方ですが、当初発表されていた篠田ミルさんが体調不良で降板され(おだいじに…)急遽の登板だったようです。いやいや素晴らしかったです。

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・橋本ロマンスとサエボーグが生み出す、ダンスと着ぐるみによる新作パフォーマンス「パワーチキン」┃ステージナタリー
サエボーグ 私としては「パワチキはまだ新人だから、作品の1部門にちょっと出演させてもらえたら……」ぐらいのイメージだったんですけど、タイトルロールになってしまいました(笑)。
橋本 パワーチキンは、今までのサエさんの作品世界のルールからちょっと外れた存在で、今までのサエさんの世界観そのものにも多大な影響が出るはずだし、既存のキャラクターたちもパワチキの登場によって存在の意味がガラッと変わるだろうと思ったんです。つまりパワチキはけっこう世界を揺るがす存在だから、ちゃんとメインキャラに据えて、この子を軸にしたパフォーマンスにしようと。
確かに……パワチキの登場により、家畜たちに意志が芽生えたように感じました

・橋本ロマンス×サエボーグが初コラボ、ラテックス製の着ぐるみが踊る「パワーチキン」開幕┃ステージナタリー
プロショットが上がっていますが、今回上演中の撮影がOKだったのでSNSには沢山の画像や動画がアップされています。気になる方は探してみてくださいね。これサエボーグ側からの提案だったのかしら(基本いつもそうなので)。
twitterのオススメ欄に流れてきて興味を持ち、当日券狙いで来場したひとも少なくなかったようですよ