せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2003年10月08日(水) 日暮里、浅草、「イヌの仇討」

 朝から予定していた仕事が急になくなってしまい(うち合わせはしたんだけどね、結局企画自体がなくなって)、下準備をしていたのでややがっかりしながら、昨日の続きの矢絣の布地探しに日暮里に出掛ける。

 おなじみのトマトで探したのだけれど見つからない。惜しいのはあるんだけどね。
 上の階に行こうとエレベーターに乗ったら、乗り合わせたおばさんに「おしゃれですね」と話しかけられる。エレベーターの中は、僕とおばさんの二人きり。
 「え、そんなことないですよ」と返事をしたら、おばさんはとてもびっくりしたようす。さらにあわてて「あ、そうなの……。でも、いいかんじよね……」などとしどろもどろになってしまい、三階で降りて行った。
 どうやら、彼女は僕のことを「おばさん」だと思い、「おばさんにしてはおしゃれ」だと思って声を掛けたらしい。それが、男の低い(低め)の声で、おばさんじゃなくておじさんだということが判明。びっくりしたというわけらしい。
 僕は別にちっともおしゃれな格好をしてたわけじゃなくて、黒いジーンズにブーツ、アロハシャツの上にGジャンを羽織って、頭は金髪。
 たしかに、「おばさんにしては」というカッコがつけば、「おしゃれ」なのかもしれない。
 それにしても、昨日、ヒゲをそったばかりで、こんな目にあうなんて……。「自然なおばさん度」が上がっているということか。

 日暮里で何も見つからなかったので、浅草に向かおうと決心。錦糸町行きのバスで下谷、根岸、竜泉を通って、浅草寺の裏で降りる。
 浅草寺の境内に入ったら、ちょうど「平成中村座」の裏手だった。
 何やら人が集まっている。どうやら、昼の部の「鏡山再岩藤」のラストシーンが近いらしい。
 舞台の裏側が道(?)に面していて、大きなクレーンに黒衣さんが何人もスタンバイしている。
 そのうちに、舞台が大きく開いて(幕は下りてる)、勘九郎さんが走って出てきた。と見る見る、クレーンに身体をしばりつけてる。幕が振り落としでなくなって、客席が全部見えるようになったところで、そのまま舞台へどーんと……。
 宙乗りじゃなくって、クレーンで上下っていうのが、串田さんっぽい演出だなと思った。
 道に集まった僕たち(総勢三十人くらい)は、開いたまんまの幕の後で、クレーンに乗った勘九郎さんが上下している様子と、大喜びのお客さんの様子を拍手しながらずっと見てたんでした。クレーンと一緒に勘九郎さんが、舞台奥に引っこんで来て幕。
 勘九郎さんは、黒衣さんたちに、動きをこうして……と細かく指示をしてる。
 で、カーテンコール。幕が開いたところに勘九郎さん&クレーンが大きくせり出して、客席の上まで出て、上下してる。お客さんは大喜び。
 ひとしきりご挨拶が済んだ後、幕がしまって、クレーン&勘九郎さんは舞台奥に。
 台から降りると、拍手していた僕たちに向かって手を振ってくれた。
 なんだか、すごいうれしかった。何人かは毎日来てるようなかんじの人だけど、大半はほんとの通りがかりの人たち。そんな人たちに、舞台の奥をバーンと開けておいしいところを見せちゃって、「只見するんじゃねえ」じゃなくって、手を振ってくれる余裕がね。
 朝からへとへとで何だか沈んでた気持ちが一気に元気になったような気がした。
 その勢いで、門前の着物屋さんを何軒かまわって、最後の一軒で、矢絣の着物を手に入れる。
 紫と白のオーソドックスなのじゃない、紫一色のやや変わった柄なんだけど、イメージとしては十分。値段もとってもお手頃だったので、即ゲット。
 そのまんまバスとJRを乗り継いで、小松川高校へ。
 
 今日は、衣装を着ての通し稽古。
 買ってきた矢絣をお犬さま付女中役のあやかちゃんに着てもらい、OKということに。
 ほかの役の着物もあれこれ考えて、これで決定ということになった。
 芝居は、あちこち「もっと……」というところはあるものの、ずいぶん安定してきた。
 終わったあと、細かいダメ出しをする時間がなかったので、一人に一言ずつ感想を伝えて、全体としては「ついにどこを見ててもおもしろくなった」と話す。
 文化祭の後、初めて稽古を見せてもらったときには、「お話の中心をずっと見ていないといけない」というダメを出した。全体が一つになっていないと、この芝居の緊張感はなくなってしまうから。それから約20日経って、この芝居に出ている全部の役がきっちりといいチームになっているのがわかるようになった。話の中心を追って芝居を見ている合間に、ふっと脇を見ても、そこでちゃんと羽目を外さない、きちんとした芝居をしている。もとい、1時間という上演時間の間、ほとんど出ずっぱりの登場人物全員が、きちんとそこで息をしている、そんなかんじ。
 ややほめすぎな気がしないでもないのだけれど、僕の感想はそんなところだ。
 それから「とても疲れていて、悲しい気持だったのだけれど、今、あなたたちの芝居を見せてもらって、元気をもらった気がします。地区大会では、一日の最後の演目。朝からずっと芝居を見ているお客さんと審査員にも、そんな元気をあげてくださいね」とも話した。
 衣装は決まったものの、小道具の準備はまだまだ終わらない。みんなまだまだやることがいっぱいだ。

 夜は、台本。もらった元気を化学変化で文字に変えていく。

 初日まであと42日!


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