せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2004年02月19日(木) 「エンジェルス・イン・アメリカ」

 12時。茗荷谷で松浦くんと待ち合わせ。
 彼の行きつけの和食屋さんで、まずは食事。
 煮魚定食、とっても美味。
 その後、昼時でどこもいっぱいだったので、ドトールでコーヒーをテイクアウトして、公園の広場でうち合わせ。
 いい天気でほんとに気持ちがいい。
 5月のプロデュース公演のフライヤーについていろいろと。
 いつものフライングステージの公演とは違うものを、とお願いしてくる。

 14時。ベニサンピットでtptの「エンジェルス・イン・アメリカ」。
 マチネソワレの連続。ますだいっこうちゃんと一緒。
 94年、95年にセゾン劇場で、同じ、ロバート・アラン・アッカーマンの演出で見てるこのお話。
 80年代のニューヨークを舞台にした、ゲイとエイズと宗教のお話。
 セゾン劇場での上演は、オールスターキャストで、ひたすら豪華。見る側の僕たちも、かなり「ありがたく」見てた気がする。
 ゲイ用語はともかく、ユダヤ教、モルモン教についての言葉がひたすらいっぱいで、その言葉を聞き漏らすまいと一生懸命になって見てたと思う。
 第一部、第二部の連続上演は、かなり体力的にもきつくて、芝居の重たさに打ちのめされ、第二部に一気にファンタジーになってしまうようなところで、取り残されたような気になり、つまり僕は、この芝居を楽しめなかったんだった。
 いいお話なんだけど、今いちおもしろくない。欧米での上演は、ものすごく高く評価されてるみたいだけど、それってほんとなの?みたいなね。
 で、この芝居は、僕にとって、「とってもリスペクトしたいんだけど、素直に肯定できない」っていうとっても微妙な芝居になってしまったんでした。
 なので、今回も一抹の不安を抱えて劇場へ。
 よくっても悪くっても、見ておかなきゃいけないという、半分は「義務感」のような気持で。

 で、結果、僕の心配は、全くの杞憂でした。
 なんておもしろかったんだろう!
 思い出してもわくわくするようなそんなかんじ。
 去年の「ベント」に出演していた若手たちが、実に嘘のない芝居をしていて、ほんとに気持ちよかった。
 大がかりな装置は何もなくって、裸舞台に移動する大きなイントレ。舞台奥の鉄の大きな戸を開け閉めするだけで、どんどん場面が変わっていく。
 黒い服を着た舞台スタッフが、転換する様子も見事だった。猛ダッシュってかんじでね。
 第一部のラストに登場する天使が、もうすごかった。
 セゾン劇場版では麻実れいが演じてたこの役はビジュアルとしては、芝居の最後に登場する「ヴェセスダの天使像」にうり二つってことになってる。それが、今回は、チョウ・ソンファくんっていう若い男の子が演じてて、登場した瞬間、「それは天使じゃなくって、雷様でしょ?」ってかんじ。彼(天使)に「お前は預言者だ」と言われるエイズに感染したプライアーは「お願いだから、もう帰ってよ」って言うんだけど、ほんとにそうよねっってかんじ。だって、もう迷惑きわまりない。
 いっこうちゃんも言ってたけど、もう彼が登場した瞬間から、もう一気に何でもありになってしまい、これからどうなるの?な期待度はいっきに高くなってしまった。
 このお話は結局は、ゲイのカップルとノンケのカップル、それに実在した政治家ロイ・コーンを絡ませた、ものすごくわかりやすいもんだったんだと気がついてしまう。
 気がつくっていうのは、変だけど、ほんとにそう。
 ちっともありがたく勉強しちゃうもんじゃなくて、ただただおもしろい芝居ってかんじ。
 それにはベニサンピットっていう空間も大きく味方してたと思う。
 椅子がどんなに固くて背もたれが腰までしかなくっても、これっぽっちも疲れなかったし、退屈もしなかったし、眠くもならなかった(となりのおじさんは、途中でうとうとしてたけど)。
 終演後、もっと見ていたいとほんとうに思った。そう思ってる自分が信じられなかった。どういうことなんだろう?
 すぐに電車に乗ってしまうのがもったいなくって、いっこうちゃんと一緒に、森下から住吉まで二駅を歩いてしまう。歩きながら、わいわい感想を言い合う。

 昨日の青年劇場の芝居に対する欲求不満を見事に解決してもらったような気分だ。
 おもしろかったのは、前回の上演が、この優れた戯曲の「情報を伝えよう」としていたの対して、今回は、登場人物の生き方、今目の前で起こってることのおもしろさをシンプルに見せてくれていたからだと思う。全ての登場人物が愛しくてしかたない。

 一番最後の場面は、1990年。それからももう14年経っている。そのことがとっても重たく響いてきた。
 あの時代の、エイズのこと。ゲイとして生きるということ。そして、今、状況はどう変わったか。
 今回の上演は、きっちりと人物を描くことで、「変わらないもの」をしっかり手渡してくれた。
 僕は、はじめてこの芝居のおもしろさ、そして、偉大さに触れたような気がした。
 おもしろい芝居は、元気とそして勇気をくれるんだなあと、しみじみと思った。
 いい芝居は、7時間の上演時間でも疲れないし、そうじゃない芝居は1時間半でももうたくさんと思ってしまうんだなあと。
 芝居の「力」について、考えた。
 見て良かった芝居、ナンバー1だ。

 初日まで、26日!


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