Diary
沙希



 きっとどこにも行けないから。


1杯のコーヒーを飲む。ゆっくりと。


目を閉じて。また開けて。

世界が変わっていないかどうかを確かめる。

生きてる。生活してる。夢を見てるんじゃない。


いつものあたしの部屋。

いつものあたしの机。

いつものあたしのベッド。


携帯が鳴る。

とりあえず無視する。

1コール。2コール。3コール。4コール。5コール。

留守電が流れる。

<<只今電話に出ることが…>>

ぶちっ。切れる。

不在着信を見る。知らない番号。

知らないフリをする。


本を開く。文字を見る。読むんじゃない。見る。

ページをめくる。

1ページ。2ページ。3ページ…。


また携帯が鳴る。

とりあえず見つめる。

1コール。またさっきと同じ番号。

2コール。3コール…。

出る。『はい…。』

<<あっ、もしもし沙希??>>

『…は?あんた誰?』

<<わからない??>>

『…わかんないって。』

<<ちゃんと学校行ってるの??>>

『行ってる。』

<<おっ、偉いじゃん。>>

『っていうか誰さ。あんた。』

<<マジわかんないの??>>

『知らないってば。迷惑。』

<<俺さ、***だよ。>>

こいつ。あいつ。

『ふざけんな。あんたのせいであたしがどれだけ傷ついたと思ってんの?』

<<ん??傷ついたの??>>

『忘れたなんて言わせない。』

<<昔のことじゃん。久々に声聞きたくなってさ。

  俺今一人だし。沙希もバイト休み??>>

『ムカツクんだって。あんた。』

<<ん??>>

『切る。ばいばい。』

<<ちょっと待てよ。>>

『あんたとなんか話したくないんだって。』

<<冷たくなったなぁ。>>

『あたし嫌いな人間はとことん嫌うから。

 じゃあね、ばいばい。二度とかけてくんな。』


ぶちっ。切る。キル。斬る。Kill。


過去に閉じ込められる。

過ぎ去った事実に縛られる。

これが日常。日常。日常。

檻ん中でもがく。

あたしはもがき続けるんだろう。


『誰か助けて…。』

そんな言葉を飲みこむ。吐き出せるわけもない。

知らないフリをしよう。

ただ目をそらして。耳を塞いで。

きっとどこにも行けないから。

2002年07月19日(金)
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