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■ きっとどこにも行けないから。
1杯のコーヒーを飲む。ゆっくりと。
目を閉じて。また開けて。
世界が変わっていないかどうかを確かめる。
生きてる。生活してる。夢を見てるんじゃない。
いつものあたしの部屋。
いつものあたしの机。
いつものあたしのベッド。
携帯が鳴る。
とりあえず無視する。
1コール。2コール。3コール。4コール。5コール。
留守電が流れる。
<<只今電話に出ることが…>>
ぶちっ。切れる。
不在着信を見る。知らない番号。
知らないフリをする。
本を開く。文字を見る。読むんじゃない。見る。
ページをめくる。
1ページ。2ページ。3ページ…。
また携帯が鳴る。
とりあえず見つめる。
1コール。またさっきと同じ番号。
2コール。3コール…。
出る。『はい…。』
<<あっ、もしもし沙希??>>
『…は?あんた誰?』
<<わからない??>>
『…わかんないって。』
<<ちゃんと学校行ってるの??>>
『行ってる。』
<<おっ、偉いじゃん。>>
『っていうか誰さ。あんた。』
<<マジわかんないの??>>
『知らないってば。迷惑。』
<<俺さ、***だよ。>>
こいつ。あいつ。
『ふざけんな。あんたのせいであたしがどれだけ傷ついたと思ってんの?』
<<ん??傷ついたの??>>
『忘れたなんて言わせない。』
<<昔のことじゃん。久々に声聞きたくなってさ。
俺今一人だし。沙希もバイト休み??>>
『ムカツクんだって。あんた。』
<<ん??>>
『切る。ばいばい。』
<<ちょっと待てよ。>>
『あんたとなんか話したくないんだって。』
<<冷たくなったなぁ。>>
『あたし嫌いな人間はとことん嫌うから。
じゃあね、ばいばい。二度とかけてくんな。』
ぶちっ。切る。キル。斬る。Kill。
過去に閉じ込められる。
過ぎ去った事実に縛られる。
これが日常。日常。日常。
檻ん中でもがく。
あたしはもがき続けるんだろう。
『誰か助けて…。』
そんな言葉を飲みこむ。吐き出せるわけもない。
知らないフリをしよう。
ただ目をそらして。耳を塞いで。
きっとどこにも行けないから。
2002年07月19日(金)
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