京のいけず日記
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2005年01月30日(日) |
泣く快感 (Heavyです…) |
蕨野行(わらびのこう) 監督:恩地日出夫 出演:レン(市原悦子)・ヌイ(清水美那) 馬吉(石橋蓮司)・甚五郎(瀬川哲也)他 <自主上映作品>
昨年、身体ともに呆けた母を病院から連れ帰り、家族で看取った。看取ったなどと言っても、仕事優先の私は都合の良い時間に来ては、ほんの数時間、母の顔を見て帰る程度だった。
毎日の世話は、老いた父と、実家近くに住む姉がしていた。仕事を言い訳に、呆けや、死…、現実と直面しようとしない私を、姉は非難するどころか、顔を見れば母が喜ぶからとそう言った。
悲しむ間もなく、葬式だの、法事などが、慌ただしく済んでいった。 しばらくして心優しい姉は不眠症になった。 老齢の母は、姉の心の支えでもあったのだ。
その姉が勧めてくれた映画…。 見たことで気持ちが少し解放された…、良い映画だから、機会があれば見てねと、可愛い便箋に綴られていた。
母が病に倒れた時、もちろん悲しくないわけがなかった。 呆けていく、変わっていく母の姿を見るのが辛かった。 同時に、心のどこかで、いつかみんな死んでいくんだと、私もこうして死んでいくんだと、醒めた自分を感じていた。
病院のチューブや、機械からやっと解放された母を、穏やかに眠っているのを起こしてまで、水分や、食事を取らせたりすることに疑問を感じていた。
何と冷たい人間だろう…。自分でもゾッとする。神経がどうかしてるのか。 そんな自分を認めるのが嫌で、自然と足取りは重くなった。 姉は何も言わなかったけれど…、私の気持ちを分かっていたんだろう。
「お母ちゃん。ちょっとでも食べて。飲んで…」 無理じいしてスプーンを口に運ぶと、母は思い出したように、歯のない口をもぐもぐさせる。母は幸せなのか。姉は姉で、私は私で自分に問い続けた。
母は幸せなのか。どうすればいいのか。 (どこか他人のようにも見える)あんたの気持ちが分からない…。 時おり、姉は私に答えを求めた。
私は答えれられなかった。思いを口にしてはいけなかった。 母よりも、優しい姉を傷つける方が、私には怖かった。
姉はこの映画を観て何を感じたんだろう。 私は何を感じるだろう…。 見たいと思った。
上映会は公共の小さなホールで行われた。 テーマがテーマだけに、中高年以上の、それも圧倒的に女性が多い。 私の隣の席にはダンナがいる。 趣味じゃないから、いいよ、と言ったのに、付き合ってくれるらしい。
独特の語り口に最初は馴染めず、戸惑ったが、気が付いたら泣いていた。 悲しいんじゃない。でも、涙があふれてしょうがなかった。
口減らしの為に、老いて捨てられる身を悲観する事もなく、死を自然のままに受け入れ、それでも最後まで懸命に生きようとする人の姿。蕨野衆の姿。
静かで、力強く、美しい映画だった。 物悲しいのに何故かほっとする、救われる、そんな映画。
母への悲しみから少し解放されたと言う姉。 母はああいう姿だったけれど、最後までがんばって生きたんだ…と。 明るくなった姉を見てほっとする。
亡くなった母はどこへ行っただろう…。 母は幸せだったか…。
いつか行く道。冷血な私にはどんな最後が待っているだろう。 行く手に答えが待っていてくれるなら、それも楽しい…かもしれない。
★石橋蓮司演じる、やんちゃなじーちゃん、ウマ(馬吉)が、とってもチャーミングだった。左右田のおじさん(留三役)も久々に見たわ。じーちゃん、ばーちゃんになっても、男は男、女は女、違うんだねと思った。
にしても。じーちゃん達に男性を感じてしまう私って… (^^ゞ
Sako
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