【読書】リリス

リリス  G・マクドナルド著  荒俣宏訳  ちくま文庫

感想:
 ハイ・ファンタジィの源流ってこういうことかぁ、と読了後にしみじみと思った。

 訳者、荒俣氏はあとがきにおいて、G・マクドナルド氏をこう、紹介されています。

   ”ルイス・キャロルやラファエロ前派主義の芸術家達に大きな影響を与え、
  今日の”英国ファンタジー”を支える物語作家C・S・リュイスやJ・R・R・トール
  キンの遠い先祖となった人物”
   ”オーデンは、”ファンタジー”という万能の名称をかれの作品に与えるこ
  とをあえて排し、ノヴァーリスやカフカの作品と同じ意味で”ドリーム・リ
  テラチャー(夢の文学)”という新鮮な形容詞をそこに被せたのでした”

 ここまで言わしめながら、つい最近まで、埋もれてしまっていたという事実の理由は、その作風にあると思います。ファンタジィという、いわば「子供向け」の舞台に、生と死、宗教、愛と憎しみなどの「大人向け」な内容が乗っているというスタイルは、書店においてカテゴライズしにくいものであったと思われます。その結果、売れる見込みが無いと判断した出版社が、取り上げなかったのでしょう。
 ところが、ハリー・ポッターなどの成功を受けて、日本市場でも需要があることに気付いた出版社が、慌てていろいろなファンタジィの掘り起こしをかけています。本作も、その一つであるということです。

 内容は、一つでも書いてしまうとそれでネタバレとなってしまうような、とても緻密で、繊細で、それでいて軽快で、爽快なものです。
 生きる、ということや、愛する、ということなど、精神的な部分にぐいぐいと食い込んでくるストーリィで、ある意味宗教的な部分も感じられました。
 しかし、決して説教くさいと言うことではなく、こんな世界もあるんだよ、と、紹介してくれているような雰囲気で、肩肘張らずに物語の世界へとどっぷりと浸かりこむことが出来ます。
 ファンタジィの面白さが、一通り入っているので、読んでいて飽きが来ることもありません。

 1895年に書かれた本作ですが、100年以上経った現代においても、全く色褪せることなく、新たな感動を与えてくれる事実を前に、人の想像力の豊かさや、感受性の奥深さに感じ入らずにはいられません。
 そして、1986年に日本語に訳した荒俣氏の功績も偉大だと思います。
 作品の質を損なうことなく、異なる言語で置き換えると言うことは、それだけで一つの芸術なんだなって改めて思いました。

 ファンタジィなんて子供の読むもんだ〜、なんて不埒な考えをいまだに持っているような人にこそ、読んでみて欲しい一作です。
 もちろん、ファンタジィ好きなら、決して読んで損はしないことを請け負います。
 おすすめです。

Amazonによる紹介ページ
2003年07月06日(日)

日々 / いけだ