オトナの恋愛考
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あんな面接じみたメールを送った私の心の中には もう彼に会ってみたいという気持ちが既にあったからだと思う。
あれは昨年の暮れもおし迫った12月29日の夜、 サイトにアクセスした私の受信箱の中に彼からの1通のメールが着信していた。
送信日時はその日の昼すぎだった。 「うさぎさんの住む町に来ています。 もし会えるのならこの携帯アドレスまでお返事を下さい。」
添付されていた画像は たしかに私の住む町から見た山々の風景だった。
「ごめんね。今このメールを見ました。 本当に今日、○○に来たんですね。ビックリしました。」
私はそこに記された彼の携帯のアドレスへ 今度は直接返事を送った。
「そうですよね。急にビックリしちゃいますよね。 あなたから返信がないので、今日は東京へ大人しく帰ってきました。」
彼の突拍子もない行動に驚きながらも お正月休みに入っているのだから 家族との帰省の為にきっとこの近くを通りかかったんだろう。 ダメで元々で冗談でこんなメールを送ってきたんだ、とその時は思った。
まさか約束もしないままに行き当たりバッタリで こんな遠くまでわざわざ会いにくるようなそんなバカなタイプではない。
後日、初めて一緒に食事をした夜にその事を訊ねてみた。
「ああ、あの日は本当に一日暇ができて 思い立って即レンタカーを借りて うさぎさんに会いに行っちゃったんだよね。」 と、言葉少なにちょっとハニカミながらひろは笑った。
まだ会った事もない存在すら曖昧なメールの相手に逢うために レンタカーを借りて何百キロも離れた町に来てしまう男にはじめて会った。
寡黙で落ち着いていて、プライド高く、常識人にみえるこの人の どこにそんな情熱と行動力があるのだろうか。
私はますます興味を持った。
3月の第一週の土曜の夜に私たちは初めて逢った。
待ち合わせ場所を間違えてしまった私の為に タクシーを使って予約しておいてくれた店へ 私たちは予約時間を1時間も遅れて入った。
写真とはちょっと印象が違っていたけれど でも第一印象はやっぱり 優しげな目元の清潔感溢れる好印象は変わらない。 口数は少ないけど、上がった両方の口角が いつも微笑んでいる感じでちょっと可愛らしかった。
終電の関係で一緒にいた時は2時間ほどだった。 でも私たちは初対面だとは思えないほど 打ち解けて笑いあって楽しい時間を過ごした。
温和な笑顔と言葉少なにキチンと答えるその雰囲気は 第一線で活躍している自信と行動力と 頭の良い人間だけが持つ人をひきつける何かを持っていた。
彼は東京の夜景を一望に見渡せる海に近い高層ビルの 高級そうなラウンジの窓際の席を予約してあった。
私はキチンと自分の名刺を渡し、 自分がナニモノであるかを簡単に伝えた。 彼も自分の名刺を私にくれた。
日本中を飛行機を使って日帰りで出張するような そんな忙しい仕事をしている彼の会社は IT業界の中でも誰でも知っている最大手の企業であった。 彼はそこの営業の管理職の肩書きを持っていた。
毎日の帰りが0時を回ってしまうような日々の中で 癒される存在を求めていた。
さすがに健康に自信がなくなってきたという事で 最近ではサプリメントを飲みだした、と笑って言った。
たぶん潜在意識の中でゆっくりまた逢いたいと思ったのだろうか。
私の無意識の欲求が言わせたセリフは・・・
「年に数回アメリカから取り寄せて飲んでいる サプリはすごく良いですよ。 今夜の食事のお礼にプレゼントさせてくださいね。」
先月は偶然にも2週続きで東京へ行く用事があったのだ。
「私はこんな風に知り合って 実際に会うようなことはしないタイプなんですよ。」
「じゃあ僕たちがこうして会えたという事はキセキなのかな?」
「ええキセキです(笑)」
「そっか(笑)キセキなんだ。」
彼は嬉しそうに笑った。
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