オトナの恋愛考
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2010年06月15日(火) 24hours_last






チェックアウト時間ぎりぎりに部屋を出た私たちは
エレベーターで何度もキスをした。

今まで彼にそうされる度に、タシナメテいた私だったけど
もうそうする事に慣れてしまって
彼の唇を当然のように受け入れていた。

ホテルを出て駅に向かった。
前の晩にお茶を飲んだカフェの前を通り過ぎる時に
ひろは急に私のボストンバッグを自分の旅行用カバンの上に乗せた。

「重いでしょ。ほら最初からこうすれば良かったね。」
「ありがとう。」

メトロの路線を間違えて乗ってしまった私たちは
次の駅で乗り換える事になり
逆の路線のホームまで、まだ500mも歩かなくてはいけない事に気付いた。
慣れないハイヒールのせいで私の足は少し痛んだ。

「なんか足が痛くなっちゃった。」「ほんと?じゃあタクシーで行こう。」

そういうとまた方向を変えた彼の後についていった。

地上に出て手際よくタクシーを拾ってくれた。
行き先は私が所属する日本法人の本社。
これはひろにはわからないから、私が住所を告げた。

少し早めに着いたので近くのカフェで時間を潰した。
今回、彼はゲストとして私の仕事仲間が主催するセミナーに参加。

朝になって別れるのは寂しいと言った私のワガママを利いてくれた。

本社のセールスセンターの一角で行われるセミナーは
私が10年来お世話になっているアメリカ人のご夫妻が主催。

私はかなりご無沙汰をしていたので
相変わらず美しい奥様の方が
嬉しそうにそばに来てくださったのでひろを紹介した。

本当の関係は明かすことが出来ないので
「最近、懇意にしてくださっているお客さまの○○さんです。」と
ひろの本名を彼女に告げた。

「あら、そうなんですか。ようこそいらっしゃいましたねえ。」と
片言ではあるけれど流暢な日本語でひろを迎えて下さった。

旦那さまのJ氏も近づいてきたのでもう一度、彼を紹介した。

ひろは誰に紹介しても恥ずかしくない。むしろ誇らしくもある。
「はじめまして。今日は楽しみにしていました。よろしくお願いします。」
ニッコリと微笑んでご夫妻を喜ばせた。

前半が終了したインターバルの時間に
姉のように可愛がって下さっている50代の女性リーダーたちに呼ばれた。

「ちょっと、うさぎちゃん元気だった?」
「今日のゲストは素敵な方ねえ。」
「どこで知り合ったのよ。」
「ちょっと紹介して。」

少し困ってしまったけれど、魅力的な男性を
選別する目は肥えている彼女たちの目に留まったって事は
ひろはまずまずのレベルな男なんだろう。

この日の彼はスーツは同じものだったけど
前の日とまた違うドレスシャツを着ていてすごくハンサムだった。

椅子に座った彼のそばに行き、
「ねえねえ、あそこにいるお姉さまたちが
 あなたが素敵だから紹介してって。」とイタズラっぽく笑って言った。

彼はニコッといつもの笑顔で椅子から立ち上がり
ひろに興味津々な二人のセレブな女性リーダーに会釈した。

彼女達は嬉しそうに魅力的な笑顔で近づいてきた。

「ようこそいらっしゃいました。素敵な方ですねえ。
 うさぎさんとどうやってお知り合いになったの?」

困惑している表情がわかったので私がひろに代わって答えた。

「うふふ。秘密です。」わざと茶化して言った。逆にその方が冗談ぽい。
「あらーちゃんと教えなさいよ〜。」と言われ、
「えへへ。冗談ですよ。
 お客様のご紹介で最近プログラムを始めた○○さんです。」

興味深々な色っぽくて素敵なレディたちに紹介した。

一番年上の尊敬するN女史が
「うさぎさんはとても素晴らしいアドバイザーですから
 ○○さんは運が良いですよ。よくアドバイスを聞いてあげてね。」
と言ってくださった。

「はい。その通りですね。僕は運が良い。」と
ひろは笑顔でそう答えてくれて嬉しかった。

一緒に席に戻ってから、彼女たちの年齢と年収を彼に教えた。

「へえ、凄いねえ。それに皆さん綺麗だしそんな年齢に見えない。」
「うふふ。だから言ったでしょ?うちの会社のプログラムは凄いって。」

それから後半の部が終ったのは夕方の4時過ぎだった。
久しぶりに会って、ビッグパパJ氏に捉まりそうになったので
ゲストが待っている事を口実にして本社を出て外で待つひろの元へ戻った。

「ねえどうする?」
「ん?まだ僕と一緒にいたいでしょ?」意地悪っぽくわざと訊くから
「うーん、ひろの意地悪。私に言わせるの?」とすねて見せた。
「あはは、僕もまだうさちゃんと一緒にいたい。」
「じゃ、今度は新宿に移動しよっか。その方がひろも私も都合いいよね。」
「そうだね。そうしよう。」

新宿へ移動して東口に出ていつものホテル街へ。

何度かまた気持ちのいい快楽の時間を過ごした後
今度は身支度の時間に余裕を持った。

ベッドに腰掛けてシャツのボタンを止めながら
急に彼が真面目な顔で私に言った。

「あのさ。」「なあに?」

「正直に言うと僕は今の仕事で普通以上の収入はあると思う。」
「うん、そうでしょうねえ。」と正直に答えた。

彼の会社とポストと仕事の激務を考慮すると
たぶん8桁は下らない年収はあるはずだ。

「でもね、定年後の事を考えるとうさちゃんの仕事は
 副業にいいんじゃないかなと思う。」
「そうだね。今は時間がないのはわかってるよ。」
「僕は今の仕事に満足しているけれど、伝えたい人がたくさんいるんだよ。」
「うんうん。私もそう思うよ。」
「それにうさちゃんが素晴らしい仕事をしている事もわかったし
 僕の人生においてとても良い出会いだと思ってるよ。」
「そう思ってくれると私も嬉しい。」

それから今まで私に言わなかった彼のご両親や兄弟の事。
忙しい中でも社外での県人会や大学OB会の交友関係の事も話してくれた。

「あのね、また1週間後に東京に来る予定なの。」
「そうなんだ。20日だよね。」
「そう。」
「ちょっとスケジュールを調整してみるよ。」

私からまた逢いたいと言ったわけではないけれど
そう言ってくれたことがとても嬉しかった。

それから乗車する駅が違うのに
新幹線のチケットを買って改札まで見送ってくれた。

「あれ?ひろが乗る駅はここだっけ?」「ううん、違うよ。」
「ありがとう。わざわざ見送ってくれるのね。」
「そう。だってうさちゃんは方向音痴だって知ってるし
 すぐに間違うから心配で付いて来た。」

優しい笑顔でひろはそう言った。
改札を入る時に抱きついてキスしたいぐらいだったけど
人ごみの中ではそれは無理だから
彼の手をそっと握った。彼も握り返してくれた。

少し歩いてから振り返ってみると
彼はまだこちらを見てくれていて私はすごく嬉しかったけど
都会の人波は私をコンコースからホームまで容赦なく押し流し
彼の姿も人ごみの中に消えてしまった。

ひろとの24時間はこんな風に流れていき
私たちはまた新たな選択のドアを開けてしまったようだ。

その予感はすごく嬉しくもあり悲しくもあった。

また私は過去の過ちを繰り返しそうで
愛をとるか仕事をとるかその選択にまた迷いそうになる。





夢うさぎ |MAIL

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