岸部・・・?
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市民センターの喫煙所には近所中の老人がたむろっており、取るに足らない世間話を交わしておりました。交わすというよりも体内からこぼれている感じで、聞き手は大きく頷くばかりの老人大頷き大会であります。
そこに、し、しさしぶり〜!と一人のいきり立った老人が、疾風のごとく割って入って来ました。 その時、少し離れたとこに座して下を向いてた、いかにも気を失った爺もハッと彼の方を向いた程です。
彼は登場シーンの勢いのまま、少し前まで50日間入院していたことを語り始めました。話は冒頭から大袈裟で、しかし老人達には新鮮らしく、遠く離れて位置する前述の気を失っていた老人も、話の輪には入ってないのに一人勝手に彼の一言一言に頷いていましたが、そんな老人を尻目につばをペッペ飛ばしながら被害状況を語っておりました。
その鬼気迫る語り口調から何やら並々ならぬものを感じ、やはり私も猛烈に気になっておりました。 50日前に何があったのかを!
私はいつもの嘲笑スタイルも一応捨てきれずにいましたが、どこか固唾を飲んでいました。 どうやら、彼は佐川急便の台車に後ろから轢かれて足を骨折したらしいです。
その自らの情けないアンビリバボー体験を、 鼻息を荒げてまくしたてるその雄々しさ、哀れさ。 私の頭の中で再現される、おそらくこういうまぬけな姿勢であったろう、滑稽さ。
「ホ、ホラッ・・ここ!ここ!」スネの治療痕、見せてます。 「あーほんと、」と聞き手。
彼はひとまずその骨折話が終わると、”ツカミはオッケイ”とばかりに満足そうに円卓の輪に入りました。 その後も饒舌ぶりは変わらず続きます。 「私はちょうど今年78歳で、七転八倒する、しかし七転び八起きなんですわ。この不思議なる体験、いやぁ今年は間違いなく人生のターニングポイントです。」
知るか!
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