空虚。
しずく。



 キャンバス。

記憶、は脳内の白い壁に、
一面に描かれた絵画のような、ものだ。
少なくとも、私にとっては。
それはまるでスクリーンのように、
次から次へと記憶を取り替えて、
時々の絵を映し出していて。

一面の笑顔が溢れるときもあれば。
一面の泣き顔が溢れるときもある。

…だけど、そんなのは大した問題じゃない。
問題なのは、楽しい記憶はすぐに描き直され、
元どおりの真っ白に戻ってしまうのに。
アノ、記憶は何度消してもまるで身体が覚えているかのように、
何度でも私の白を犯し、一面の痛みを塗りあげるのだから。
突き動かされるようにわきあがる感情と。
抑え付ける為にこぼれる笑み。
吐いた息すら、凍えそうなほど、芯が冷たい。
なのに、全身がしびれるように痛くて。

何度でも、私はアノ感覚を味わう。

世にはびこる畜生にも劣る下衆によって。
乱されること自体、乗り越えていない証だ、と。
頭では理解しているのに、ついてこない身体が憎らしい。

理解できない思考回路を潰したくて、仕方なくなる。
周りすべてを「同類」と見なして、
ともすれば消し去ってしまいたくなるほどの激情を、
抑える術があるなら、だれか教えて欲しい。


涙がこぼれそうなほどの感情が溢れるのを感じているのに。
肝心のそれが流れなければどうしようもない。

冷え始める身体を認識するたび、
理性が頭を支配し、激情が欲望を支配する。
相反する想いを笑顔にすべて封じ込めて。
…彼女を抱くときすら、僕は笑えなくなっている。

疲れているんだ、となんとか納得させて。
だけど、気付かれるのも時間の問題だ、と。
わかっている。…すでに、酒に依存し始めているのだから。
眠る前に記憶を飛ばして。翌朝目覚めれば、何も覚えていない。
手繰り寄せる記憶はどれも曖昧。
それに恐怖を感じ、また安堵する。

痛い。どこが痛いのかわからない。すべて痛い。
冷たい。こんなに身体は熱いのに。冷たくて、寒い。
気持ち悪い。吐きそうで、だけど気持ちよくなりたくて。
…今は、虫しか殺せない。
気付けば、動物や子供に苛立ちを感じ始めて。
…まずいよな、と頭でっかちの知識を総動員している。
何がまずい?何もまずくない。ヤっちゃえ。変わらない。

疲れた。

2004年05月21日(金)
初日 最新 INDEX MAIL HOME


My追加