空虚。
しずく。



 ずっと、目を背けていればよかった。

私の一人称は、いつも定まらない。
仕事の時や、友人と会話を交わすときなどは、
一貫して、「私」を使っているけれど。
脳内で変換されているのは、「僕」や「俺」だったりもする。
そのどれでも違和感なく使えるので、別段問題は無いけれど。
なんとなく、落ち着かない気分になる。

彼女は疲れているのか、僕を拒絶した。
…理由はわからない。聞けなかった。ただ、拒まれた。
僕らは何も共有していないし、何も分かち合っていない。
僕は彼女を知らないし、彼女も僕を知らない。
僕は時々、思う。
常日頃、僕が紡ぎだす愛の言葉は、
どこまでが真実で、どこまでが虚構なのだろうか。
それが、僕にはとても恐ろしい。

僕は彼女を愛しているのだろうか。
いや、そもそも僕は正常な感情を持っているのだろうか。
僕は笑う。泣きもする。怒りも感じる。
でも、どこかすべて、冷めている。
何もかもを諦めている。
まるで世捨て人のように、
自分の感情を認識してはいけないもののように、
感じている。
そう、感じることが多い。

名を呼ばれるのは、今でも嫌いだ。
…苗字はまだ、記号だと思えば我慢出来る。
だが、名前は…耐えられない。
己ですら呼べない。気持ち悪い。
それを過去の傷のせいにするのは簡単だけれど。
それすら、面倒くさい。
被害者面するのも、飽きたんだ。

けれど、記憶は確実に消えていく。
しかも、自分にとって都合の悪い記憶だけ。
自分の弱さに、反吐が出そうになる。
自分という人間の、核心に迫る部分は、
月日を重ねる毎に消え、今はもう、残っていない。
引き出そうと思えば、引き出せるはずなのに、
出てくるのは僕の頭がつくり上げた都合のよい捏造。
だから、もう、過去は持たない。
今を消化していくだけの、日々。
苦しい事は簡単に消える。
楽しい事も、日を重ねれば消えていく。
それを虚しい、と感じることも、もう出来ない。
せめて、心から笑えていた頃があったと信じて。
それに近づけるように、精一杯笑っていくだけ。

いつだって、疲れは取れない。
…本気で死に直面すれば、僕は心から生きたい、と願えるのだろうか…

2004年12月25日(土)
初日 最新 INDEX MAIL HOME


My追加