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| 2020年05月11日(月) ■ |
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| 南極探検いろいろ その2『BLIZZARD: Race To The Pole』 |
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『BLIZZARD: Race To The Pole』
2005年ごろのことなんですが、ちょうどスコット探検隊の旅から100年が近いので(※スコットが南極点に到達するのは1912年)、BBCで番組をつくるというので参加したんです。スコット隊が行ったのは南極ですが、いま南極には犬ぞりでは入れませんので北極に行ったんです。番組の主旨は、スコットの時代と同じ装備/服装で旅を再現するというものでしたから、ツイードの服を着て出かけたんですよ(笑)。3カ月ほどの旅で、最初の2カ月は犬ぞりを使って、あとは徒歩で北極にかなり近いところまで行きました。帰ってきたときは25kgも体重が減ってました(笑)。 北極の旅では見るものも聴くものもないですから、とにかく考えるしかないんですね(笑)。そこで「自分は何がやりたいんだろう」ってじっくり考えて、やっぱり音楽かな、となって、やるならちゃんとやろうと決めて、音楽学校の作曲科に1年通いました。26歳のときです。 (「ペンギン・カフェ」の夢は21世紀も続く:音楽家アーサー・ジェフスに訊く┃WIRED)
その「BBCの番組」というのが今作『BLIZZARD: Race To The Pole』。2006年に一時間番組の全6回として放送され、その後DVD化されました。おかげで今観られる〜。二枚組の356分、日本語はおろか英語字幕もなかったので雰囲気で鑑賞したところもありますがまーこれが面白い。面白いといっていいのかとも思うが。
1911年、南極点を目指して二組の探検隊が出発します。ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊。アムンセン隊が初到達の座を獲得し無事帰還、一方スコット隊は遅れること35日。失意の帰路で彼らは全員遭難、遺体が発見されたのはその8ヶ月後のことでした。
スコット隊には不可解な点が多い。4人分の装備と食糧を用意していたのに5人で出発し、機動力があり寒さに強い犬よりもどデカい動力雪上車と馬でそりを引くプランを重視する。結果雪上車と馬は極寒に耐えられず、そりを人力で引くしかなくなる。スキーも栄養も足りなかった隊員たちは体力をどんどん消耗する。デポ(食糧や燃料の補給所)に置いていた燃料が容器の破損で漏れ出てしまっていたり、その時期には珍しい嵐=ブリザードに遭遇するという不運も重なる。
旅程どおりに天候は再現出来ませんし、グリーンランドはちょっとはあったかそうです。犬ぞりの犬たちには食用の役目もありましたが(進むにつれ食糧等荷物が減る→そりが軽くなる→そりを引く犬を減らしたい→犬を食べれば一石二鳥! アムンセンの無駄も慈悲もないどプロフェッショナルっぷりよ……ちなみにスコットは馬を殺すことも躊躇したそうです)、現代の旅ではセスナが迎えにきてくれる。犬も人間も、皆無事に帰れます。
それでもブリザードはやってきて道を阻むし、人間は疲労し怪我をします。ちなみに冒頭のインタヴューでアーサーが「徒歩」といっている箇所、さらっといってますが数百キロはある荷物を積んだそりをスキーで引いて、ですよ。ぜんっぜん動かないの。そのうち天気が良くなって雪が溶けてくるとスキーも滑らなくなるからますます動かないの。
うん、これはアムンセンが勝つなあ。快活に進むノルウェーチームを観て思う。実際ep.4、放送回をふたつ残しゴール。的確なデポ配置、滑らかに進む犬ぞり、防寒もバッチリで暖かそうな毛皮。スコット隊との差は明らかです(そうと分かっていての「再現」、イギリスチームは精神的にもつらかっただろう)。それでも極点を目指すという行為は並大抵なことではない。悪天候に道を阻まれ、犬はケンカし傷だらけ。ホントしょっちゅうケンカしてたな……荒くれものが多かったのか血だらけになる迄噛み合ったり、思い思いに走って紐が絡まったり、勝手に走って乗り遅れた隊員がそりに轢かれたりしていた(苦笑)。同行したマッシャーさんが泣いてしまうというシーンも。それだけに極点到達を果たし歓声をあげる場面は感動的でした。
そうそう、映像では伝わらないが相当臭いもしたかと……チェリー・ガラードが書いたように、極寒でも人体からは大量の分泌物が出ますからね。アイスランドに戻ってきた一行を迎えたホテルの従業員が、彼らとハグしたあとくさっ! て顔で離れたのは見逃せないシーンです(笑)。お風呂に入り髭を剃り、そして数ヶ月ぶりの、お皿に載った温かい食事をテーブルで。その満ち足りた顔! おつかれさまでしたよー。
最終回、ep.6でようやくスコット隊もゴール。実際のスコットたちの写真のように(まあ、敢えて意識したのかもしれないが)疲労が滲んだ表情で記念撮影に収まる。そしてあまりにも消耗が激しいため(定期的に体重や脂肪率等を計測していた)、復路途中でTVスタッフ側から終了の判断が下されてしまう。実際のスコット隊と同様に、やはり帰還は叶わなかったのです。もともとこちらのチームは常に冷静で穏やか。かなりの難局にも場が険悪になるということがありませんでしたが、淡々と状況を受け入れる様子がまたせつなかった。
歴史家、登山家、サヴァイヴァル心理学者たちのコメントも挟まれます。なんでこんなに差が出たのか、スコットは何を考えていたのか。何故、最後のデポ迄あと20kmのところで力尽きたのか……。諦めたのではないか、といわれている。帰ることを、生きることを諦めた。極地調査や資料採取も担っていたスコット隊と、極点一番乗りだけを目指したアムンセン隊には、その旅の目的からして大きな違いがある。軍隊式だったスコットと、楽天的でユーモアを忘れないアムンセンというリーダーシップの違いもある、と。ふたりが残した豊富な資料から、まだまだ検証が進みそうです。
さてアーサーですが、チームのなかでは下から二番目の年齢(隊員のプロフィールはこちら)ということもあってか大人しい印象。スコット隊長との縁も紹介されていました。25kg痩せたということでしたが、確かに出発前の体重測定ではまるまる(ホントにまるまる!)していたのに帰るときは体型も人相も変わってましたね。皆同じ服装、雪目と凍傷予防のためにゴーグルと鼻カバーをしているので、外では誰が誰だかわからない。テント内は薄暗いし、皆髭もふもふになっているのでやっぱり誰が誰だかわからない(笑)。人力でそりを引き続けた結果、肩を痛めたアーサーは極点到達を諦めることになる(ep.4で離脱)のですが、帰ることが決まってちゃんと映った顔を見て驚きました。やつれた、ではない。精悍な大人の顔になっていたのです。出発前はひよこちゃんみたいな顔だったのに! 静かに話を聞き入れ、カメラに向かってウィンク(!)して、笑顔でセスナに乗るシーンではこちらが涙ぐんでしまったよ。
その1にも載せたこの画像は、Penguin Cafeの最新作『Handfuls of Night』のアートワーク。スコット隊は緑色、アムンセン隊は赤色のテントでした。
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・これは、すごい。BBCドキュメンタリー「BLIZZARD - Race to the pole」を観ました┃THE MUSIC PLANT Blog 野崎洋子さんのブログでDVDの存在を知り、入手することが出来ました。有難うございますー。
・ちなみにR15表記だったんだけどなんでか判らなかった。犬を食べるシーンとかあるのかな……とドキドキしていたけどありませんでしたよ!
当時のものを再現したペミカンはうわー油脂の塊〜って感じだったけど、それを溶かしてお肉焼いて食べてるシーンはおいしそうだったな。あったかいし、貴重なタンパク源だし。心安らぐひととき、皆ニコニコしてた。 食糧といえば、ビスケットは携帯食として当然とはいえ、紅茶も大量に用意しているところにイギリスを感じました。
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・パンダロゴが生まれたわけ┃WWFジャパン 「最初のロゴは、ジェラルド・ワターソン氏が描いたスケッチをもとに、WWFの創設メンバーで絵心もあったピーター・スコット卿がデザインしたものでした。」 そうだったのかー! WWFのトートバッグ持ってるよ! コアラサポートに参加してるよ! 知らぬところで仕事に触れていたよ……。 父親は探検家、母親は彫刻家。ご両親の資質を受け継いだのですね。
・特別展「大英自然史博物館展」(2017年3月18日〜6月11日)┃国立科学博物館 日本に来てた…スコット隊のあれこれも来てた……知らなかった、ショック……。
そんなこんなで極地探検についてはこれからも調べていくことでしょう。新しい趣味かな? これ。
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| 2020年05月08日(金) ■ |
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| 南極探検いろいろ その1 |
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家で観たものについてはなかなか書く気が……といいつつ、twitterに書き散らしていた南極ものの感想はまとめておこうかなと思い立ちました。関連文献等を読み直したいとき、散らばっているログを探すのが面倒くさいという理由もある(笑)。
「スコットが無事に冒険から帰っていたら、わが家族はなかったということになるんですね。」そもそもは、Penguin Cafeのアーサー・ジェフスがロバート・スコット隊長と縁があるということで興味を持ちました。そのことについてはこちらを参照。
・TOWER RECORDSのPenguin Cafe ・(元)グランドキャバレーのPenguin Cafe
ロバート・スコットという人物については、小学校の授業か、学研の『科学』と『学習』か、はたまた図書室で見かけてか、「南極到達レースでアムンゼン(今はアムンセン表記の方が多いかな)に敗れ、帰路で遭難死した」という程度の知識は得ていた。しかし授業だったら何の科目? 地理? 歴史? 今の子たちってこういうの習うのかなーと思っていたら、やまこさんから「(お子さんが通っている)探究塾のテーマ探究で『冒険編』というものがあり、そこで習ってきた」とのこと。大人になるにつれ遠ざかっていくジャンルなだけに、こうした場が設けられているのっていいですねえ。数十年後、こうして再び探求の旅に出ることもあるかも知れませんよ(微笑)。 という訳で、まずWikiを見たのですが……。
・ロバート・スコット Robert Falcon Scott┃Wikipedia ・テラノバ遠征┃Wikipedia
震えあがる。なんという悲劇か……。これはもうちょっと突っ込んで調べてみようと文献を探しはじめました。
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・『南極の スコット大佐とシャクルトン』佐々木マキ┃福音館書店 佐々木さんのすっとぼけたマンガが楽しく、壮絶な旅の記録とのギャップがすごい。役目を終えた犬や馬は殺して食料に……という話もしっかり書かれており、こども向けだからという手加減はありません(素晴らしい)。写真やテキストも豊富で読み応えありました。
・『世界最悪の旅 スコット南極探検隊』チェリー・ガラード┃中央公論新社 動物学者として探検隊に参加した著者は当時24歳。南極点を目指すスコットたちを見送り、その後捜索隊として彼らの遺体を発見、埋葬しています。旅は苛烈を極める。寝袋がカチカチに凍るので、入る迄に相当な時間がかかる。着替えるのも、靴を履くのも同様。そんな環境でも汗、唾液、鼻水は出る。それがまたすぐ凍る。人体はこんなに分泌液が出ているのだ、と気づかされる……想像を絶する描写に、読んでいるだけなのに指先がどんどん冷たくなる。 「太陽は中天にとどまって沈まず、人は軌道を失って焼きぐしの中心の一点のごとくに回り、どっちを向いてもただ北を指している。」行ったひとにしか目に出来ない、絶望的な風景です。 そもそもは「冒険」ではなく「探検」に行ったので、ペンギンの卵を採取したり観察記録をとったりと、彼らは多くの仕事をしていました。その様子が読めるのも興味深い。ペンギンの生態についての流れで「奇異鳥」という鳥の名前が出てきて戸惑うも、「南半球の飛べない鳥」「ニュージーランド南島にすむ駝鳥目の一種で、無翼鳥ともいう」ときて、ああ、これってキウイか、日本では当時キウイのことを「奇異鳥」と呼んでいたのか〜と気づく楽しさもあります。 原書初版は1922年、邦訳初版は1944年。解説によると「戦中の厳しい出版制約のなか、探検記だからとA5判796ページの用紙が配給され朋文堂から出版、折から読書に飢えていた人々の渇をいや」したそうです。その後縮刷版(1953年、河出書房)、掲載項目を増やし付録や解説を加えた再刊(1984年、河出書房新社)と改定が繰り返され、1984年版を文庫化したのが本書(2002年、中央公論新社)。古本でなく手に入るのは今これだけのようです。繰り返し出版されていることが、資料としての重要さ、読みものとしての充実を物語っていますね。 そうそう、第三舞台『ピルグリム』に出てきたペンギンのおしくらまんじゅうのことも書かれてますよ。ホントにするんだね……(涙)。
関連書籍、絶版も多いみたいだけどちょっとずつ探していきたいな。スコット隊長の日記も邦訳されているそうなので読んでみたい。
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余談。
・ペンギンの「性的堕落」に戦慄、100年前の南極探検隊員 英研究┃AFPBB News(20120611) スコット隊でペンギンの生態を観察していたジョージ・マレー・レビック。アデリーペンギンの同性愛行為について論文に書けなかったそうです。一般のひとに読まれてはたいへん、とまずギリシャ語で書いてたってのがまたすごい。それほど禁忌だったのねという…時代……。
・南極探検隊のノート、氷の中からみつかる 100年ぶり┃AFPBB News(20141023) 「周辺の氷が解けたことで昨年になって発見された」。温暖化、これも時代だな……。南極はいつ迄あの南極でいられるのだろう。
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という訳で、イギリスから取り寄せたDVD『BLIZZARD: Race To The Pole』については次回。
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